お願いだから一人にしてよ。もう今日は疲れたんだよ。
 お母さんはアメリカに行っちゃうし、荷物が重くて大変だったし、目の前の人とはまともな会話できないし。

 ちゃんと「良い子」になるから。それまでまだ待って。今は放っておいて。


「……華」


 宥めるような声色。
 これじゃあ私が駄々をこねて、我儘を言っているみたいだ。何で。違うのに。
 だって、何にも知らない人と二人、これから半年もやっていかなきゃいけないと思うとしんどすぎる。


「分かった」


 ぽつりと、彼が零した。


「俺は帰る。戸締りはちゃんとしろよ。……それと、」


 金属の擦れる音がする。
 テーブルの上に置かれたのは、ピンクの花のストラップが付いた鍵だった。


「俺の家の合鍵。気持ちの整理ついたら、戻って来い」


 じゃあな、と彼が背を向ける。
 そちらにはあえて視線を寄越さず、私はテーブル上の鍵をただひたすらに眺めた。


「……華、おやすみ」


 最後にそんな挨拶を添えて、彼は去って行った。