短く発せられた彼の動詞に、今度は私が固まる番だった。
先輩は顔だけ振り返り、目を合わせることもなく再度告げる。
「俺は先に帰る。……お前は、ゆっくり帰って来い」
「え――ま、待って下さい、さっきのは違くて……!」
「華」
特別大きいわけでも、とげとげしいわけでもない。むしろ憔悴しきっているようなトーンで、彼は私の名前をなぞる。
「ごめんな」
それは、彼が初めて私に贈った、心の底からの慈悲だった。
一人足早に公園を抜けていく彼。最初に声を掛けたのは意外にも、タカナシ先輩で。
「一太?」
「タカナシ。帰り、華を送ってやってくれ。それと、」
その先は聞こえなかった。何か小声で話した後、タカナシ先輩が珍しく視線をさ迷わせる。
「一太、それは――」
「頼んだ」
タカナシ先輩の肩を軽く叩き、鈴木先輩が去っていく。
誰も何も引き留めるようなことを言えずに、暗闇の中、小さくなっていく彼の姿を眺めるだけだ。
『お前はもう、一人じゃない』
胸騒ぎと共に、彼の言葉を思い出す。
夏の夜空に溢れんばかりの星が降って、それだけが不相応に輝いていた。