まともな判断など、恐らくできていなかった。とにかく彼を土俵から引きずり下ろすことにばかり思考が及んで、それを私が言うことによってどんな弊害が出るのか、全く分かっていなかったのだ。

 思ってもいない気持ちを吐露した刹那、彼が固まる。


「だから先輩のこと、ちゃんと知りたいんです。うやむやのまま終わりたくありません」


 手段を選ばないとは、このことかと。他人事のように考えている自分がいる。

 でももう、分かってしまった。言った瞬間、この選択は絶対にしてはいけなかったのだと。


「お前、それ、本気で言ってんのか」


 彼の顔から感情が抜け落ちる。ただただ呆然と私を見つめていた。

 あまりの態度の高低差に心臓が冷え、言葉に詰まる。
 自分が蒔いた種。嘘をつき通す勇気はなくて、頷くことができない。

 撤回しようと、わななく唇を動かした時だった。


「お――――い! お二人さーん! いつまでそこにいるのー!」


 滑り台の頂上に上ったチョコが、耐えかねたように私たちを呼ぶ。
 先に立ち上がったのは先輩だった。私は慌てて彼に倣い、その背中に弁明すべく、口を開く。


「先輩、あの、今のは……」

「帰る」