今まで絶対に触れてこなかった、彼の「家族」に関すること。本当はずっと聞きたかった。気にならないわけではなくて、気にしないふりをしていただけ。


「……そんなことを知ってどうするんだ」

「知りたいんです。先輩のこと、もっとちゃんと」


 だってもう、ただの同居人だなんて思わない。世間一般的な形とは程遠いけれど、これも一種の絆で、何かしら歩み寄っていきたいと思っているわけで。

 駄目だ。こんなんじゃ彼の殻を壊せない。まだ足りない。
 もっと決定的なものが欲しかった。彼の表面を覆っている膜が揺らぐような、十分に動揺を誘うような何かが。

 先輩は一瞬目を見開き、すぐに私から視線を逸らす。それから緩く笑うと、立ち込めている重い空気を取り繕うように声色を整えた。


「は――何だ、華。まさかお前、俺のこと好きになったとか言うんじゃないだろうな?」


 僅かに覗いた感情の揺れ。
 いつもの私ならきっと、呆れて言い返していただろう。何言ってるんですか、自惚れるのも大概にして下さい、と。

 喉の奥が震える。握り締めた手の平に食い込む爪が痛い。


「――そうですよ」