こっちは冗談ではない。本気(マジ)だ。
 スマホを取り出して、画面が彼に見えるように掲げる。一を二回タップしたところで、ようやく彼は腰を浮かせた。


「――馬鹿! 何やってんだ!」


 が、と力強く腕を掴まれる。
 その拍子に画面に指が当たって、三桁の電話番号が入力された。

 ――ピ、ピ、ピ、ポーン。


『午後六時二十三分、四十秒をお知らせします』

「時報かよ――――――!」


 彼が八つ当たりのように叫ぶ。
 ピ、ピ、と規則的に音を刻む通話を終了し履歴を確認すると、どうやら「117」にかけてしまったようだ。


「あー、ビビった。……お前なぁ、」

「帰って下さい」


 ため息交じりに私を詰ろうとした彼の言葉を遮り、毅然と言い放つ。


「断る。お前は今日から俺と暮らすんだよ。お前の母さんに頼まれてんだからな」


 どうして。やっぱりお母さんは、この人と私が二人で住むことに何も疑問を持たないんだ。しかも頼まれたって。


「お前も意地張ってないで、早く飯食えよ。やること山ほどあんだから」

「……帰って」

「あ?」

「帰って下さい! 帰って!」