あれからどうにも、先輩がおかしい。
 変態ぶりに拍車がかかったというか、本来なら恋人のタカナシ先輩に言うべきであろうセリフを、容易く私に放り投げてくる。


「今日はカレーか」


 夕飯の支度をしていると、珍しく先輩がキッチンのカウンター越しに顔を出した。
 はい、と頷いてから、炊飯器の蓋を開ける。


「もうお腹空きました? 今できるので座ってて下さい」


 皿にご飯を盛り付けようとしたところで、先輩が「いや、」と思案顔で首を振った。


「俺はカレーが食べたいんじゃない。華が食べたいんだ」

「ああ、こんないいところに包丁が」


 本日の主役、にんじんたちを切り終えた刃を握った私に、彼が後ずさる。


「華……それがお前の愛情表現なんだな」

「何なんですか。ほんとに刺しますよ」


 恋だの愛だの、そんなものが絡んだら男女の同居生活なんて成り立たない。
 今更急に、どうして。そう考えるうち、一つの結論が自分の中で導き出されようとしていた。