何言ってんだこの人は!?
 突如変態と化した同居人に、遠慮する余裕もなく声を上げる。


「先輩、熱でもあります? いつにも増して気持ち悪いんですけど」

「無礼な。俺は健康だ」


 だって、あまりにも様子がおかしい。
 最初に会った時こそ変態チックな発言がみられたものの、それ以降は比較的健全だっと思う。冗談でからかわれることはあっても、むしろタカナシ先輩を巻き込んだ茶番であることの方が多かった。

 だからこそ今まで安心して暮らせていたのだ。


「冗談にしてはタチ悪すぎですよ。万が一変な事したら、すぐ出て行きますから」


 よく分からないけれど、「家出」をほのめかして対抗する。
 そういえば、最初の頃はすぐ通報だの何だの、好き勝手騒いでいたことを思い出した。

 先輩は恐らく、私の家出に一番弱い。きっと今回も血相を変えて謝ってくれるだろうと、期待している自分がいた。


「……先輩?」


 何で、何も言わないの。
 静かに私の顔を見つめて黙り込む彼に、息が詰まる。


『頼む。俺と暮らしてくれないか』


 あの日、あんなに必死だったくせに。嫌がる私に土下座してまで頼み込んだくせに。
 どうして、引き留めてくれないの。


「……早く着替えてこい」


 端的に言い残した先輩は、今度は振り返ることもなく、リビングに消えた。