「ご飯にする? お風呂にする? それとも、い・ち・た?」


 開けてびっくり玉手箱――否、いま私が開けたのは玄関のドアのはずだ。
 帰宅してすぐ、目の前に飛び込んできたのは、普段私が使っているエプロンを着用した鈴木先輩の姿だった。

 突然のことに状況把握が追いつかなかったものの、努めて冷静に問う。


「どうしたんですか、そんな気持ち悪い格好で」

「新婚の練習だ」

「タカナシ先輩との予行演習を私でしないで下さい」


 オブラートに包む余裕がないくらいには動揺した。
 エプロンを着けるのはまあいいとして、体をくねらせながら言わないで欲しい。切実に不快だ。


「タカナシじゃない。俺と華のに決まってるだろう」

「どうでもいいですけど、ご飯もお風呂も用意するの私ですよ」


 一体何なんだ。茶番にしては酷すぎる。

 しっしっ、と立ちはだかる不審者を手で払い除け、荷物を置きに自分の部屋へ向かう。なぜかぴったり後ろをついてくる彼に、訝しみながらも声を掛けた。


「何ですか。ドア閉められないので退いて下さい」

「着替え、手伝ってやろうか」

「はあっ!?」