背後から鋭い怒鳴り声を浴びせられ、冗談抜きに飛び上がる。危うく袋を落として卵を駄目にするところだった。

 僅かに振り返って声の主を目視し、かち合った視線に再び竦む。
 先輩は腕を組み、仁王立ちで私を睨めつけていた。


「いま何時だと思ってる。門限とっくに過ぎてるぞ」

「まだ十七時ですし、門限あったの初耳ですが」


 どうやら本気の喝ではなく、茶番の一環だったらしい。
 昨日や今朝とは打って変わって通常運転の彼に、こちらが困惑した。


「あっ。先輩、またトイレの電気つけっぱなしです」

「いま消すところだ」

「絶対嘘ですよね。こないだもそう言って消してなかったですよ」


 違う。言いたいのはそんなことじゃない。
 心の内とは裏腹、口からはどうでもいい小言が次から次へと出てくる。

 まるで、なかったことになってしまったみたいだ。
 帰ってからも気まずいままだったら、もう一度きちんと話して、先輩のことも色々聞こうと思っていたのに。
 先輩は、触れることすら許してくれない。


「華。それよりお前、ルールを破ったな」

「はい?」

「いま入ってくる時、何か言うことがあったんじゃないのか」