沈黙。せっかく向こうから会話を振ってくれたのに、速攻で終わらせてしまった。
 何か話さないと、と思考を巡らせる。


『最近お父さん見かけないけど……元気?』


 不意に以前の伊集院さんの言葉を思い出し、心臓の奥がぞわりと震えた。
 そうだ。今が聞くチャンスなんじゃないか。鈴木先輩のことを、何か少しでも。


「伊集院さん、あの……」


 聞くって、何を。何から聞けばいい。彼は知られることを嫌がっていたんじゃなかったの。

 ぽん、と到着音が鳴り、ドアが開く。


「ん? 何か言った?」


 顔だけ振り返った伊集院さんに、私は静かに首を振った。


「いえ……何でもないです」


 私の意気地なし。
 胸中で自身に悪態をつきながら、エレベーターを降りる。

 伊集院さんが「じゃあね」と玄関ドアに入っていくのを見届けて、私は気合を入れ直した。

 三〇五。一応鍵を差し込んで、回してみる。……勿論開いていた。
 恐る恐るドアを引いて細く開いた隙間から中を覗いてみたけれど、気配はない。自室にこもっていてくれる分には、こちらも動きやすくて助かる。

 音を立てないように、慎重に。こそこそとドアを閉めて靴を脱ぐ。
 廊下を真っ直ぐ歩いていき、キッチンに差し掛かろうといった時だった。


「こんな時間までどこ行ってた!」

「ひっ」