途端に歯切れ悪くなった母が、先輩の顔色を窺うように私から目を逸らす。


「一太くんの都合もあるだろうし……ね? 一太くん、どう思う?」


 矛先が彼に変わった。私も母と同様、彼に視線を向ける。


「ちょっと、すぐには決められないです。……確認したいことがあるので」


 そう結んだ先輩は、再び目を伏せた。
 母は「そっか」と頷いて、戸惑ったように微笑む。


「ええと……ごめんね、ちょっと電話入ったみたい。一回切るわね」

「お母さん――」

「じゃあね、華。一太くんも。体調気を付けて」


 通話が切れて、スマホの画面が切り替わる。

 嘘だ。電話が来たなんて嘘。だって、今お母さん、耳たぶ触った。嘘つくときの癖だ。
 どうして? 私は何か、間違えたんだろうか? お母さんも先輩も、私に何を隠してるの?


「華」


 先輩が私を呼ぶ。


「さっきの話は、どういうことだ」


 彼の言う「さっきの話」がどれに当たるのか、勿論すぐに察しがついた。
 真剣で、少し怖いくらいの眼差し。先程よりもよっぽど空気が重い。


「どういうって……そのままですよ。先輩がまた倒れたら、困りますし」