「あれ、ゲームもう終わったんですか?」


 普段の二倍時間をかけて、お風呂から帰還した。努めてそうしたつもりだったけれど、先輩を待たせてしまったようだ。


「ああ。もう飽きた」

「ブーム過ぎ去るの早すぎません?」


 時計を確認すれば、自分が入浴していたのは三十分ほど。入る前はあんなに夢中だったのに、いくら何でも気分屋すぎる。

 今日の彼は一体何なんだ、と訝しみながらタオルで髪の水気を拭き取っていると、先輩が口を開いた。


「……これ、何だ?」


 彼が指しているのは、ダイニングテーブルに置きっぱなしだった洋書だ。
 ああ、すみません、と軽く謝罪して、私は説明を付け足す。


「母の持っていた本です。英語の勉強がしたくて、この間ちょっと借りてきました」

「英語の勉強?」


 眉をひそめる先輩に頷く。


「先輩、洋画好きじゃないですか。だから私も、字幕なしで洋画観られるようになれればと思ったんです」


 包み隠さず話してから、数秒遅れて恥ずかしさがやって来た。何だか、これじゃあ先輩と一緒に映画を観たいと言っているみたいだ。
 しかしそんな私の様子は気にも留めず、彼はやや険しい顔つきだった。


「……別に好きなわけじゃない」

「え?」