そう問いかけると、先輩は再びコントローラーを握る。


「ゲームするんですか?」

「ああ」

「珍しいですね。まあいいですけど……あんまり遅くまでしちゃだめですよ」


 本当に珍しい。いつも勉強しかしていない先輩が、こんなにゲームにのめり込むとは。
 まあでも、たまにはいいだろう。今日一日遊び倒したって問題ないくらい、彼は普段至って真面目なのだから。

 昼間と同様、ソファに座る先輩の後ろで、私はダイニングテーブルに落ち着いた。
 チョコが押し付けて帰った漫画――ではなく、以前アパートから持ってきた母の洋書を開くことにする。

 母が一等大切にしていた、一冊の本。
「lonely lovers」――直訳すると、ひとりぼっちの恋人たち、だろうか。恋人たちなのにひとりぼっちというのが、いまいちピンとこないけれど。

 最初のページを開いて、少しずつ、ゆっくり英文を目で追っていく。
 英文自体は物凄く難しいというわけでもなくて、知らない単語に苦戦する程度だった。一回目で全てを理解できるとも思っていなかったので、適度に読み流す。

 三十分くらい経っただろうか。数ページ捲って英語に集中していたところで、突然呼びかけられた。


「華、風呂入らないのか?」