一体、何を言い出すのかと思えば。

 堪らず椅子から腰を浮かせた私とは対照的に、鈴木先輩は「いいぞ」と二つ返事で了承してしまう。


「いや、先輩もまともに取り合わなくていいですから! 何でそんな抵抗なく……」

「『もう黙れよ』」


 あ、まずい。
 ついさっき目で追った文字列が、先輩の声を通して再度繰り返された。

 私を見下ろした彼の瞳は、いつもと違う色を含んでいる気がする。そして形のいい唇が弧を描き――


「ふっ、おもしれー女」

「むかついたので蹴りますね」


 考えるより先に体が動いた。宣言通り振り回した足を、彼が器用に避ける。


「ちょっと華、雰囲気ぶち壊し! せっかく鈴木先輩が再現してくれたのに~!」

「頼んでないって」


 雰囲気もくそもない。というか、気持ち悪くて鳥肌が立ったくらいだ。

 自身の腕を撫でさすっていると、チョコが不服そうに眉根を寄せる。


「じゃあ華はどんなシーンがいいの? 今なら役者四人いるから割と対応できると思うけど」

「勝手に私を含めないでくれるかな」


 しかも当然の如くタカナシ先輩まで巻き添えだ。いや、彼なら意外とノリノリでやりかねない。


「そもそも、こんな自惚れヒーロー好きじゃないし」