目を伏せていると、チョコが私の顔を覗き込んでにんまり笑う。その表情になんとなく気が晴れて、すぐさま首を振った。


「……ううん。お母さんのこと、褒めてくれてありがとう」

「どういたしまして~」


 それからチョコと駅前の喫茶店に入り、小一時間ほどくだらない話で盛り上がった。帰りにスーパーへ寄って食材を買い込み、アパートへ戻る。


「ただいま、……戻りました」


 帰ったら「ただいま」と言うこと。鈴木先輩との暮らしを始める時、ルールになった事項の一つだ。
 気恥ずかしさに小声になった私と比べ、チョコは「ただいま~」と我が物顔である。

 返事はなくて、僅かに首を傾げた。
 廊下を進んでリビングに近づくにつれ、話し声が大きくなっていく。


「タカナシィッ! 貴様だけは許さんッ!」

「あ、ごめん。赤甲羅当てた」

「はっ、そんなのバナナでガード――ああッ」


 テレビを前に隣同士でコントローラーを握る二人。……何だ、しっかり楽しんでるじゃないの。
 外出前の先輩の様子からして、ゲームはあまり好きじゃないのかと思っていたけれど、そんなことはなかったようだ。


「私たちが帰ってるの気付かないくらい、のめり込んでるわねえ」