完全に彼女の都合というものを忘れていた。いや、勝手に押しかけてきたのだから、都合も何もないけれど。

 まあ正直、あんなのは口からでまかせだ。今更彼女と改まって話すことなどなかった。


「あー、うん。ごめん。特になくて」


 素直に申告すると、チョコは「だよねえ」と伸びをして、到着したエレベーターに乗り込む。


「タカナシ先輩がわざわざゲーム機のためだけに訪問するなんて、変な話だなあと思ったのよ」

「……どういうこと」

「華、鈴木先輩のためにタカナシ先輩を呼んだんでしょう」


 彼女には隠し事ができないらしい。別に知られなくともいいことまで言い当てられ、途端に羞恥が襲ってきた。
 黙り込んだ私に、チョコは少しだけ肩を竦めて正面を見据える。


「鈴木先輩は、華のこと迷惑だなんて思ってないと思うけどねえ」

「さあ……どうかな。口うるさいし、にんじん入れるし、あんまり好かれてないと思うよ」


 邪魔だ、とはっきり言われたわけじゃない。露骨に態度で示されたわけでもない。
 それでも、連日自分の部屋に引きこもっている彼の様子を見ていると、他でもない私が彼の行動を制限してしまっているように感じた。


「そう? さっきだって華とゲームする、華と買い物行くって言ってたし、むしろ好かれてそうだよ」