連日雨だった。
 お天気キャスターが梅雨入りを告げて、水の匂いがしつこく鼻孔を付き纏う。

 放課後、家路につこうとしていたところ、後ろから肩を叩かれた。振り返った視線の先には、タカナシ先輩だ。


「こんにちは。……どうしたんですか?」


 今日は部活がないはずだ。
 それに、彼と一対一で話すこともさほどない。細長い一重にじっと見つめられて、少し気まずかった。

 私たちの横を、帰宅を急ぐ生徒が通り抜けていく。

 タカナシ先輩は固く結んでいた口を僅かに開いたかと思えば、その瞬間、ゆっくり頭を下げた。


「ごめん」


 あまりにも突然の謝罪だったので、反応が遅れた。
 顔を上げた彼は相変わらず無表情だ。呆ける私から視線を逸らすと、左手に提げていた紙袋を差し出してくる。

 訝しみながらもそれを受け取って、中身を確認し――


「あ、」


 カラフルな小さい服から伸びる手足。フィギュアだ。

 まさか、わざわざ返しに来てくれたんだろうか。それに、「ごめん」って。


「山田さんのだって知らなくて、しばらく持ってた。ごめん」