眼鏡を押し上げる動作が毎度胡散臭い。
 真面目くさった顔で諭してくるチョコに、私は首を傾げた。そんな私の様子を視界に入れると、彼女は勢い込んで口を開く。


「すっかりフィギュアを気に入っちゃったタカナシ先輩に、ずっと『返して欲しい』って頼み込んでるみたいで……って、あ――――! 言っちゃった! 私としたことが! 口軽いんだから!」


 ぽか、と自身の頭を叩いて、大根役者もびっくりの演技を披露してくれた。声の大きさだけは満点をあげたい。


「……ふーん」

「あ、ちょっと嬉しそう。ねっ、鈴木先輩ってば健気でしょ~! そろそろ許してあげたら?」


 なぜか私より嬉々とした瞳で身を乗り出してくるチョコに、「まあ、考えとく」と返す。
 何となく、すぐに「はいそうですか」と試合終了するのは癪に障った。


「そんなことより山田くん。おすすめの漫画があるんだが、今度貸そうか」

「リビングで読めないような内容なのはやめて」


 こないだ彼女が押し付けてきた漫画を家で開くと、男子高校生二人がキャッキャウフフしていた。
 偏見はない。ないけれど、先輩に丸一日気遣わし気な目を向けられたので遠慮したいところだ。

 ざーんねん、というチョコの嘆きを聞き流して、私はミートボールを口に放り込んだ。