こいつ、友達を売った――――――!
 一瞬の躊躇もなく机の下を指さしたチョコに、恨みがましく内心叫び倒す。

 先輩の手が机の脚を掴んだかと思えば、覗き込むようにしてきた彼と正面から目が合った。


「華、俺の弁当どっちもおかずだったぞ」

「いやなに普通に覗いてきてるんですか」

「避難訓練と聞いたが、俺もそこに入っていいか」

「駄目ですよ。何でそうなるんですか」


 何の話をしているんだ、一体。自分含め、まともな会話をできている人が一人もいない。


「華、交換しよう」

「勝手に持って行って下さい」

「飯は一緒に食うと決めただろ」

「家での話でしょう!? 学校では無効ですから!」


 私の頑なな返事に、先輩は「分かった」と腰を上げる。


「俺もここで一緒に食っていいか」

「話聞いてました?」


 盛大に疲れた。結局振り出しに戻った会話に、観念して立ち上がる。
 ああ、確実に教室内での私の立場はなくなったな、と嘆いていると。


「一太」


 まるで自分のクラスかのように、平然と入ってきた勇者。タカナシ先輩だ。


「廊下は走っちゃ駄目だよ」

「ああ、悪い。ついな」