「お弁当ってさあ、やっぱり鈴木先輩の分も作ってるの?」


 私の方をじっと見つめ、チョコが問う。何を今更、という気持ちだった。


「そうだけど、なん……」

「やっだぁ! 愛妻弁当じゃーん!」


 なんで、とは、言わせてもらえなかった。
 思い切り肩を叩かれて、思わず顔をしかめる。


「よくよく考えてみれば、あの鈴木先輩と――国宝級のイケメンと同居とか、もうドリームでしかないわ!」

「チョコ、声おっきい」


 こうなるから、学校では秘密にしておいた方がいいと思ったのに。一応誤解は解けたけれど、またいつ変な人に絡まれるか気が気でない。

 大体、ドリームってなんだ。私だって最初は一ミリくらい考えなくもなかったけれど、そんな夢は初日で見事に崩れ去った。


「だぁって、寝起きのぽやぽやした鈴木先輩が見られるんでしょ?」

「いや、全然。寝起き良いし」

「じゃあじゃあ、『食器洗いは俺がやっとくから、お前は休んでろ』とか、言ってくれるんでしょ?」

「先輩がやったら割れるから、任せられない」

「ううーん……」


 どうやら彼女の夢を壊してしまったようだ。
 険しい顔で唸るチョコに、少しだけ申し訳なくなった時だった。


「でも顔が良いから全て良し!」

「ろくでもない男の人に捕まらないでね」