背後から投げかけられた声に、びくりと肩が跳ねる。
 まさか。そうは思っても、少し前に聞いたものと全く同じトーンだ。

 振り返りたくない私は、無視を決め込んで歩を進めた。


「お前だよお前。お前に言ってんの、チビ助」


 またフードを引っ張られる。
 ぐえ、と思わず情けない音が自分の喉から漏れて、後ろを睨めつけた。


「……小鳥ちゃんじゃなかったんですか、私は」

「既に黒歴史になりかけてるから忘れてくれ」


 出会って開口一番、そっちが言ったくせに。
 むくれる私の手から荷物を奪い取ると、彼は踵を返した。


「ほら、帰るぞ」

「帰りません」

「ガキみたいなこと言うな」

「うるさい変態」

「どさくさに紛れて普通に罵ってんじゃねえよ」


 はあ、とこれ見よがしに深々とため息をついた彼が、「行くぞ」と歩き出す。


「行きません」

「お前な、いい加減に――」

「ここが、私の家です」


 拳を握り締める。喉の奥がぎゅっと狭くなって、慌てて俯いた。


「……私の、家なんです」