彼のことは全然分からないのに、いつの間にか義務ではない気遣いが芽生えていたのはどうしようもない事実で。
 だから少しだけ、踏み込みたくなってしまう。教えて欲しくなってしまう。

 でも、そのラインを越えてはいけないのもまた、明白だ。

 夕飯時と同じフレーズを口にした私に、彼が首を傾げる。


「私が・・先輩と映画を観たいので、付き合ってくれませんか」


 何が彼を駆り立てているのだろう。深いところは相変わらず何も分からない。

 彼は逡巡の後、観念したように零した。


「……洋画ならいいぞ」

「え、字幕入れてもいいです?」

「雰囲気が壊れるから駄目だ」


 どういうこだわりなんだ、それ。
 よく分からないけれど、まあ彼の息抜きになるのなら内容はどうだっていいか。

 映画を観るなら、とアイスではなくお菓子と炭酸飲料を買い込み、帰路につく。

 連休に入る前、暇を持て余すかもしれないと、レンタルショップで何本か借りていた。洋画はその中で一つだけだ。

 ディスクを挿入して、彼とソファに腰かける。


「ところで、これどういう系統の話なんだ」