こんな軽装な家出人がいてたまるか。
 反射的に返してドアを開けると、彼が荒々しく私の腕を掴んだ。


「こんな時間に家出するな、馬鹿!」

「家出じゃないですって!」

「じゃあ何だ! こそこそ出て行こうとして!」

「コンビニに行くだけです!」


 あまり玄関先で大声を出し続けては、近所迷惑になってしまう。もう既に手遅れかもしれないけれど。

 声のボリュームを落として、私は彼に抵抗した。


「ちょっとアイスでも買ってくるだけですから……離して下さい」

「分かった。じゃあ俺も行こう」

「え、」


 どうしてそうなる。こうして一人で行くのは、単に糖分を摂取したいから、というのも勿論あるけれど、彼からの逃避の意味も含まれていたのに。


「どうした。行くんだろ」


 先行して外へ出た彼が、怪訝そうに私を見る。
 逆にどうして通常運転でいられるのだろう。気まずいとか、この人はそういう感情がないんだろうか?


「い、行きます」


 正直、もうアイスなんてどうでも良かった。今この瞬間をどう切り抜けようか、それだけで頭がいっぱいだ。

 道中はしばらく無言で、信号を二つ越えた頃、先輩は唐突に口を開いた。


「……さっきは、悪かった」