少し寝てしまっていたらしい。時刻は二十一時前だった。
のそりと起き上がり、めんどくさいなあ、という感想が頭に浮かぶ。一晩明かせば多少はほとぼりが冷めそうだけれど、今また部屋を出て行くのは気まずい。
とはいえ、食器を洗わなければならないし、お風呂だってまだだ。
渋々ベッドから降りてドアノブを回す。数センチ開けて様子を窺った。……いる。リビングにいる。
彼も部屋にいてくれれば気にせず家事ができるのに、リビングにいられては困るではないか。
「……何か買いに行こ」
甘い物を食べたい気分だ。
財布だけを持って、音を立てないように部屋からの脱出を試みる。
抜き足差し足で玄関まで進みながら、仮にも自分の家なのになぜこんなことをしているんだろうと馬鹿らしくなった。
静かに靴を履き、静かに立ち上がる。そして静かに玄関のドアを開けようとしたところで――
「華」
「ひゃい」
噛んだ。それはもう、盛大に噛んだ。
いや、だってびっくりするだろう。完全犯罪、否、完全にバレていないと思っていたのに、後ろからいきなり声を掛けられたら。
「どこ行くんだ」
「いや、あの……ちょっとそこまで」
「家出か?」
「違います」