三階なら別に階段でもいっか。
エレベーターを待つ時間が惜しくてそう判断した数分前の自分に、早くも文句を垂れたくなる。
失敗だ、大失敗。衣類やら何やらぱんぱんに詰め込んだボストンバッグを抱え直しながら、ため息をついた。
クリーム色の綺麗なマンション。三階の三〇五号室。
今日からそこが私の住み家になるらしい。らしい、というか、決定事項なんだけども。
大荷物を抱えながら階段を上ってくるのは、なかなかに堪えた。いくら春先といえども、じんわり汗をかいてしまう。
その額の汗を拭って、今一度盛大なため息をつく。なぜって、目的の場所に着いてしまったから。
305、と金字で書かれてあるのを確認して、私はインターホンを押した。
「……あれ?」
反応がない。
不安になって部屋番号を見ても間違えていないし、私が来るのは今日だ、と母がきちんと伝えてくれていたはずなんだけれど。
もう一度呼び鈴を鳴らして、尚も無反応なドアに戸惑っていた時だった。
中からどたどたと足音が聞こえる。かちゃ、と内側の施錠が外れる音がして、ドアが開いた。
「あ、」