チッ
いつものように僕が勉強をしていると、
スマホをいじっていた信長様が舌打ちをする音が聞こえた。
そして彼はボソッと呟いた。
「この不届きものめが…」
「いきなりどうしたんですか?」
彼がイライラしながら答える。
「今ツイッターというもののアカウントを作っておってな、ユーザー名を記入する欄があったから『織田信長』って入れたんじゃよ。そしたらどうなったと思う?」
「どうなったのですか?」
「『そのユーザー名はすでに使用されております。』じゃと。メールアドレス『odanobunaga』もな」
「…あ〜」
「のう大河、ワシこそが『織田信長』じゃよな?」
「はい」
「この時代にはパラレルワールドのワシは来ておらんよな?」
「はい」
「じゃあワシだけが『織田信長』じゃよな?」
「…はい」
「なのに『織田信長』はすでに使用されている。なにゆえに?」
「それは…そういう人もいるんですよ」
「ワシの名前を勝手に使うなど、身の程知らずにも程があるじゃろ」
「それはそうですけど…」
「それにこの『織田信長』のアカウントの者はなにやら呟いておるが、ワシ、こんなこと言わんしな」
「あくまで『織田信長』が言いそうなことですから…」
「ワシの名を使うならもっとワシっぽいことを呟かんか」
「例えば?」
「そうじゃな…『延暦寺の奴らがいつになってもワシの言うことを聞かないから燃やしておる。』なんてどうじゃ?」
「…炎上しますよ」
「延暦寺がか?」
「いやアカウントがですよ」
「そうか…じゃあ『今日ホトトギスの声を聞こうと思ってな、ワクワクしながら鳴くのを待っていたんじゃが、いよいよ鳴かなかったから殺してしまったわ』はどうじゃ?」
「炎上します」
「むう…」
「過激なことを書くとSNSはすぐ炎上するんですよ」
「難しいの」
「もっと穏やかなことはないのですか?」
「ない。派手を好んで生きておるからの」
「じゃあ呟くのはむいてないですよ。」
「そうか、残念じゃ」
「インスタなんてどうですか?」
「もうすでにワシの写真全部誰かに投稿されておる」
「…そうですね」
「ワシの絵はパブリックドメインじゃからな。肖像権なんぞないらしい、今ワシはこうしてこの時代におるのにな」
「他の人たちは夢にも思っていないでしょうからね」
インスタもダメか。
「それにしてもSNSという者は面白いの、誰でも有名になれるのか」
「ええ、投稿がバズれば一発で有名になれます」
「ワシらの時代では考えられないことじゃ」
「そうですね。だから夢があります」
確かに戦国時代には普通の身分の家だったら有名になれるチャンスはないだろう。
そう考えるとSNSはとても画期的ものかもしれない。
「ワシもやりたいの〜」
「炎上するのでダメです」
「え〜。そもそも炎上するとどうなるんじゃ?」
「そうですね、アカウントの住所が特定されたり、あとはリプライ欄に悪口などの誹謗中傷を書かれたりします」
「ん、なにゆえに?」
「やっぱり投稿が不適切だったり不謹慎だったりですかね」
「そうか。でも、そやつらは関係ないじゃろ?」
「ええ、まあ。その投稿で不快な気持ちになったくらいでしょうか」
「なのになぜそやつらはそんなことをしてくるんじゃ?戦ではあるまいし」
「それは…」
「っていうかその悪口や誹謗中傷も不適切じゃろ」
「そうですね…」
「ふむ、まあそういうものなのか」
「ええ、残念ながら。そういうわけで、信長様が炎上したら、僕の家の住所が特定されちゃうのでやめてください」
「むう…なあ大河、何か良い案はないか?」
「良い案ですか?何か明るい話題とかないのですか?」
「明るい話題か、そうじゃ、『桶狭間の戦いで逆転勝利じゃ!義元の首を討ち取ったぞ!』はどうじゃ?」
「首を討ち取るはダメですが、逆転勝利くらいなら」
「そうか!では『お市から両端を縛った小豆袋が届いたぞ!妹からの贈り物は嬉しいの!』は?」
「いいんじゃないですか。その小豆袋が良いかどうかは分かりませんけど」
「なるほど、わかってきたわSNSというものが」
「あとは、いいねリツイート企画だったら炎上しないと思います」
「なんじゃそのいいねリツイート企画というものは?」
「『〇〇だったら良いね、〇〇だったらリツイートして』のようなものです。」
「〇〇か、例えば『敵城を落としたいのじゃが戦法は、水攻めだったらいいね、兵糧攻めだったらリツイートせよ』とかか?」
「いいですね」
「こういうのでいいのか」
「はい」
「ほう、意外と簡単じゃの」
「それはよかった」
その後信長様は僕のスマホを使ってSNSアカウントを作り、しばらくいじっていた。
チッ
また彼が舌打ちをする音が聞こえた。
「どうしたんですか?」
「全然フォロワー数が増えないんじゃが」
「まあ最初はそんなものじゃないですか?」
「ワシより『織田信長』のアカウントの方がフォロワー数が多いのじゃが」
「向こうのほうがSNS歴が長いですからね」
「バズらん」
「そんなに簡単ではないですよ」
「むう…やはり延暦寺を燃やすしか…」
「それは炎上するのでダメです」
「くう…」
いくらあの織田信長といえども、SNSで人気者になるのは簡単ではないようだった。
「それにしても、戦国時代にもSNSがあればのう」
「未来人たちのスマホではできなかったのですか?」
「戦国時代にはSNSもないし、通信する電波すらないからの」
「そうでした」
「じゃから、お主たちスマホを持ってくるのは別にかまわんのじゃが、ほとんど使えないのじゃよ」
「カメラなんかは使えるんじゃないですか?」
「確かにあれは敵陣なんかの写真が取れて便利じゃったが、スマホの充電がなくなったら意味がないからの」
「そういえば充電器もありませんしね」
「ああ」
スマホはこの時代だと便利だけど、スマホだけだと向こうの時代ではあまり役に立たないのか。
「もし戦国時代にSNSがあったら信長様はどのように使うのですか?」
「そうじゃな、まずは敵の様子を探る」
「どのように?」
「まず敵陣や城の名前を検索欄に入れてみるじゃろ、そうすると大体の情報が掴める」
「そうですかね」
「お主の時代でもそうであるように、どこの時代にも大体は機密情報を迂闊に漏らしてしまうものがいるのじゃよ。SNSがあったらそれを簡単に知ることができるじゃろ?」
「なるほど」
確かに自分の会社の内部情報などをSNS上に書き込んでしまう人は一定数いる。
戦国時代だとそういうものも利用することができるのか。
「あとはそうじゃな、敵将をこちら側に寝返らせる」
「そんなことができるんですか?」
「ああ。メッセンジャーアプリ?というものを使えば別々の場所にいる者とも個人的な連絡が取れるのじゃろ?」
「ええ」
「じゃから、敵将と連絡をとって交渉すればいけると思うのじゃよ」
「そんな簡単にいくものですかね」
「1番有効な手段はやはり金じゃな。これで大体うまくいく」
「お金ですか」
「うむ。」
「でもそのことを敵の主に報告されちゃったらどうするのですか」
「その時はすっぱり諦める」
元々向こう側の兵だからこちら側に損失はあまりないと言う。
「あと意外と有効なのが、嘘の情報を流すというものじゃ」
「嘘の情報ですか?」
「例えば、『あいつとはすでに裏切る算段がついている』とかな」
「そんな怪しい情報を相手は信じるんですか?」
「意味がないと思うじゃろ?じゃがな、意外とこれが効くんじゃよ。戦国時代は裏切りなんか当たり前の時代じゃからな。それで互いに疑心暗鬼になって敵陣が崩壊する」
裏切りや謀反が当たり前な時代だからこその使い方か。
いや、こちらの時代でも同じかも知れない。
明らかに嘘だと分かる話でも当事者だと本当のことに聞こえてしまうのはいつの時代でも変わらないのだろう。
「ワシが戦国時代でSNSを使うとしたらこんな感じじゃな」
いつものように僕が勉強をしていると、
スマホをいじっていた信長様が舌打ちをする音が聞こえた。
そして彼はボソッと呟いた。
「この不届きものめが…」
「いきなりどうしたんですか?」
彼がイライラしながら答える。
「今ツイッターというもののアカウントを作っておってな、ユーザー名を記入する欄があったから『織田信長』って入れたんじゃよ。そしたらどうなったと思う?」
「どうなったのですか?」
「『そのユーザー名はすでに使用されております。』じゃと。メールアドレス『odanobunaga』もな」
「…あ〜」
「のう大河、ワシこそが『織田信長』じゃよな?」
「はい」
「この時代にはパラレルワールドのワシは来ておらんよな?」
「はい」
「じゃあワシだけが『織田信長』じゃよな?」
「…はい」
「なのに『織田信長』はすでに使用されている。なにゆえに?」
「それは…そういう人もいるんですよ」
「ワシの名前を勝手に使うなど、身の程知らずにも程があるじゃろ」
「それはそうですけど…」
「それにこの『織田信長』のアカウントの者はなにやら呟いておるが、ワシ、こんなこと言わんしな」
「あくまで『織田信長』が言いそうなことですから…」
「ワシの名を使うならもっとワシっぽいことを呟かんか」
「例えば?」
「そうじゃな…『延暦寺の奴らがいつになってもワシの言うことを聞かないから燃やしておる。』なんてどうじゃ?」
「…炎上しますよ」
「延暦寺がか?」
「いやアカウントがですよ」
「そうか…じゃあ『今日ホトトギスの声を聞こうと思ってな、ワクワクしながら鳴くのを待っていたんじゃが、いよいよ鳴かなかったから殺してしまったわ』はどうじゃ?」
「炎上します」
「むう…」
「過激なことを書くとSNSはすぐ炎上するんですよ」
「難しいの」
「もっと穏やかなことはないのですか?」
「ない。派手を好んで生きておるからの」
「じゃあ呟くのはむいてないですよ。」
「そうか、残念じゃ」
「インスタなんてどうですか?」
「もうすでにワシの写真全部誰かに投稿されておる」
「…そうですね」
「ワシの絵はパブリックドメインじゃからな。肖像権なんぞないらしい、今ワシはこうしてこの時代におるのにな」
「他の人たちは夢にも思っていないでしょうからね」
インスタもダメか。
「それにしてもSNSという者は面白いの、誰でも有名になれるのか」
「ええ、投稿がバズれば一発で有名になれます」
「ワシらの時代では考えられないことじゃ」
「そうですね。だから夢があります」
確かに戦国時代には普通の身分の家だったら有名になれるチャンスはないだろう。
そう考えるとSNSはとても画期的ものかもしれない。
「ワシもやりたいの〜」
「炎上するのでダメです」
「え〜。そもそも炎上するとどうなるんじゃ?」
「そうですね、アカウントの住所が特定されたり、あとはリプライ欄に悪口などの誹謗中傷を書かれたりします」
「ん、なにゆえに?」
「やっぱり投稿が不適切だったり不謹慎だったりですかね」
「そうか。でも、そやつらは関係ないじゃろ?」
「ええ、まあ。その投稿で不快な気持ちになったくらいでしょうか」
「なのになぜそやつらはそんなことをしてくるんじゃ?戦ではあるまいし」
「それは…」
「っていうかその悪口や誹謗中傷も不適切じゃろ」
「そうですね…」
「ふむ、まあそういうものなのか」
「ええ、残念ながら。そういうわけで、信長様が炎上したら、僕の家の住所が特定されちゃうのでやめてください」
「むう…なあ大河、何か良い案はないか?」
「良い案ですか?何か明るい話題とかないのですか?」
「明るい話題か、そうじゃ、『桶狭間の戦いで逆転勝利じゃ!義元の首を討ち取ったぞ!』はどうじゃ?」
「首を討ち取るはダメですが、逆転勝利くらいなら」
「そうか!では『お市から両端を縛った小豆袋が届いたぞ!妹からの贈り物は嬉しいの!』は?」
「いいんじゃないですか。その小豆袋が良いかどうかは分かりませんけど」
「なるほど、わかってきたわSNSというものが」
「あとは、いいねリツイート企画だったら炎上しないと思います」
「なんじゃそのいいねリツイート企画というものは?」
「『〇〇だったら良いね、〇〇だったらリツイートして』のようなものです。」
「〇〇か、例えば『敵城を落としたいのじゃが戦法は、水攻めだったらいいね、兵糧攻めだったらリツイートせよ』とかか?」
「いいですね」
「こういうのでいいのか」
「はい」
「ほう、意外と簡単じゃの」
「それはよかった」
その後信長様は僕のスマホを使ってSNSアカウントを作り、しばらくいじっていた。
チッ
また彼が舌打ちをする音が聞こえた。
「どうしたんですか?」
「全然フォロワー数が増えないんじゃが」
「まあ最初はそんなものじゃないですか?」
「ワシより『織田信長』のアカウントの方がフォロワー数が多いのじゃが」
「向こうのほうがSNS歴が長いですからね」
「バズらん」
「そんなに簡単ではないですよ」
「むう…やはり延暦寺を燃やすしか…」
「それは炎上するのでダメです」
「くう…」
いくらあの織田信長といえども、SNSで人気者になるのは簡単ではないようだった。
「それにしても、戦国時代にもSNSがあればのう」
「未来人たちのスマホではできなかったのですか?」
「戦国時代にはSNSもないし、通信する電波すらないからの」
「そうでした」
「じゃから、お主たちスマホを持ってくるのは別にかまわんのじゃが、ほとんど使えないのじゃよ」
「カメラなんかは使えるんじゃないですか?」
「確かにあれは敵陣なんかの写真が取れて便利じゃったが、スマホの充電がなくなったら意味がないからの」
「そういえば充電器もありませんしね」
「ああ」
スマホはこの時代だと便利だけど、スマホだけだと向こうの時代ではあまり役に立たないのか。
「もし戦国時代にSNSがあったら信長様はどのように使うのですか?」
「そうじゃな、まずは敵の様子を探る」
「どのように?」
「まず敵陣や城の名前を検索欄に入れてみるじゃろ、そうすると大体の情報が掴める」
「そうですかね」
「お主の時代でもそうであるように、どこの時代にも大体は機密情報を迂闊に漏らしてしまうものがいるのじゃよ。SNSがあったらそれを簡単に知ることができるじゃろ?」
「なるほど」
確かに自分の会社の内部情報などをSNS上に書き込んでしまう人は一定数いる。
戦国時代だとそういうものも利用することができるのか。
「あとはそうじゃな、敵将をこちら側に寝返らせる」
「そんなことができるんですか?」
「ああ。メッセンジャーアプリ?というものを使えば別々の場所にいる者とも個人的な連絡が取れるのじゃろ?」
「ええ」
「じゃから、敵将と連絡をとって交渉すればいけると思うのじゃよ」
「そんな簡単にいくものですかね」
「1番有効な手段はやはり金じゃな。これで大体うまくいく」
「お金ですか」
「うむ。」
「でもそのことを敵の主に報告されちゃったらどうするのですか」
「その時はすっぱり諦める」
元々向こう側の兵だからこちら側に損失はあまりないと言う。
「あと意外と有効なのが、嘘の情報を流すというものじゃ」
「嘘の情報ですか?」
「例えば、『あいつとはすでに裏切る算段がついている』とかな」
「そんな怪しい情報を相手は信じるんですか?」
「意味がないと思うじゃろ?じゃがな、意外とこれが効くんじゃよ。戦国時代は裏切りなんか当たり前の時代じゃからな。それで互いに疑心暗鬼になって敵陣が崩壊する」
裏切りや謀反が当たり前な時代だからこその使い方か。
いや、こちらの時代でも同じかも知れない。
明らかに嘘だと分かる話でも当事者だと本当のことに聞こえてしまうのはいつの時代でも変わらないのだろう。
「ワシが戦国時代でSNSを使うとしたらこんな感じじゃな」