織田信長が僕の家に来てから1ヶ月後、
僕は織田信長が家にいる生活が当たり前になっていた。
きっとこれからも彼との生活が続くのだろうと思っていた。
けれど、実際はそうならなかった。
別れの時は突然だった。
僕が勉強をしていると、
「のう大河。」
と、彼が話しかけてきた。
いつものように振りむくと、僕は目の前の光景に驚愕した。
彼の体がうっすらと透明になっていたのである。
「信長様、そのお体は…」
「ああ、どうやら別れの時間のようじゃな」
「そんな急な…」
あまりに突然の事態に僕は愕然としていた。
「なに、所詮ワシは過去の者。いつまでもこの時代におるわけにもいくまい。」
「それはそうかもしれませんが…」
僕だって、いつかは彼が過去に帰ることは分かってはいたが、こんななんの前触れもないなんて。
そんなことを考えていると、僕はふと、あることを思い出した。
そういえば、僕はまだ彼に聞いていないことが1つあった。
「信長様、最後に一つだけ聞いてもいいですか?」
「うむ、なんじゃ?」
「信長様は戦国時代のいつから来られたのですか?」
「…やはりそのことか。まあ、お主が聞いてこなかったらワシから話そうと思っておったのじゃが…ワシが戦国時代のいつから来たか、か」
「はい」
少しの間を置いて、彼は言った。
「ワシは、本能寺の変のから来たんじゃよ」
「…え。」
本能寺の変、それはまさに天下を目前とした織田信長が夢半ばで討ち果たされることになった出来事だ。
歴史が正しければ彼はそこで死んだはずだった。
「それってどういうことですか!信長様はそこで自害されたはずじゃ…」
信長は本能寺で自害した、そう言いかけていた時、僕は思い出した。
信長の首が見つかっていないことを。
本能寺の変の後、明智光秀は信長の首を必死になって探したが、結局見つからなかったという。
だから…
「あなたは、本能寺で死んでいない…」
「そうじゃ。ワシもあの時は流石のワシももう駄目だと思った。だから家臣にワシの首ごと爆薬で吹き飛ばすように頼んだ。そして家臣はワシの命令通り、爆薬を使った。じゃがワシは死ななかった。爆薬に吹き飛ばされて意識が途切れた後、再び意識を取り戻したらこの家に来ておった」
彼がこの家に来た時のあの轟音と煙は爆薬のせいだったのか。
「でもなぜ僕の家に」
「それは分からない。何かの偶然か、はたまた意味のあってのことだったのかも知れぬ」
「…では、どうしてあなたはタイムループしたのですか?」
「それも分からない。じゃがワシが思うには、未来を変えるかどうかの選択肢を与えられたのじゃろう」
「それって…」
「お主たちが知っておるように、ワシは本能寺で死んだことになっている。ではワシが生きたままその時に戻ったらどうなると思う?」
僕は彼が言おうとしていることに気づいた。
そして、それが意味することに。
「『織田信長』にその先が生まれる…」
「そうじゃ」
「その先とは光秀を倒すものかもしれないし、はたまた別の何かかもしれぬ。じゃが、それはお主たちの知る歴史の中にはな
いものじゃ。じゃから『織田信長』が戦国時代に戻ってきたら、おそらく未来もまた別のものとなってしまうじゃろう」
『織田信長』が本能寺の変の後も生きていた未来。
「…では、あなたは未来を変えるのですか」
『織田信長』が過去に戻って歴史を変えたら、未来にいる僕らはどうなってしまうのだろうか。
そんなことを考えていると、彼は言った。
「いや、ワシは未来は変えん。」
「…え。でも『織田信長』が本能寺の変の後に生きる歴史なんて僕たちの歴史にはないから、未来は変わってしまいます。」
「ああ。じゃからワシは織田信長として生きない。」
どういうことかと疑問に思ったが、やがてその意味に気づいた。
「それは、あなたは過去に戻ったら『織田信長』を捨てるということですか?」
「ああ。」
確かにそうすれば歴史が変わることはない。
だが、彼は本当にそれでいいのだろうか。
「あなたは、信長様はそれでいいのですか?志半ばで潰えたのに、その歴史を変えられるのに、それでいいんですか?」
彼は言った。
「実のことを言うと、ワシも最初は過去に戻ったら歴史を変えるつもりでいたんじゃよ。じゃが、お主に出会い、この時代を見て考えが変わった。」
「どうして…」
「じゃって、ワシが目指していたのは天下布武、すなわち泰平の世じゃ。そしてこの時代のこの世界はまさしくワシの目指していたものじゃった。だから、未来を変える必要はないと思ったのじゃ。」
確かに今の世界は戦国時代から見たら平和かもしれない。
でも…
「でも…それでも、今もどこかでお腹を好かせている子供もいますし、紛争が絶えない場所だってあります。日本にも夢を持たないままただ自堕落な日々を送る若者もいますし、私利私欲にまみれた汚い大人もたくさんいます。それでも、あなたは未来を変える必要はないと言うのですか?」
「ああ。」
「なぜ…」
「それはな、大河、それはお主たちが変えることだからじゃよ。この時代にまだ残っている問題はお主たちが解決しなければならないものじゃ。」
「そうかもしれませんが…」
「なに、ワシだってあと一歩のところで終わってしまったんじゃ。泰平の世を作ることがいかに難しいかはワシもよく知っておる。」
「だからあなたは過去に戻ったら『織田信長』を捨てるのですか」
「うむ」
「この未来を見て安心して過去に戻れるのですか?」
「ああ。女体化にクリスマス、SNSなどという面白い文化もあると分かったしな。それにワシらの時より寿命も長い」
「…分かりました。」
彼がそれでいいならこれ以上僕から言うことはなにもないだろう。
そして最後に彼は言った。
「世話になったな、大河」
「こちらこそ」
こうして織田信長は元いた時代へ帰り、僕の彼の奇妙の同居生活は終わりを迎えた。
僕は織田信長が家にいる生活が当たり前になっていた。
きっとこれからも彼との生活が続くのだろうと思っていた。
けれど、実際はそうならなかった。
別れの時は突然だった。
僕が勉強をしていると、
「のう大河。」
と、彼が話しかけてきた。
いつものように振りむくと、僕は目の前の光景に驚愕した。
彼の体がうっすらと透明になっていたのである。
「信長様、そのお体は…」
「ああ、どうやら別れの時間のようじゃな」
「そんな急な…」
あまりに突然の事態に僕は愕然としていた。
「なに、所詮ワシは過去の者。いつまでもこの時代におるわけにもいくまい。」
「それはそうかもしれませんが…」
僕だって、いつかは彼が過去に帰ることは分かってはいたが、こんななんの前触れもないなんて。
そんなことを考えていると、僕はふと、あることを思い出した。
そういえば、僕はまだ彼に聞いていないことが1つあった。
「信長様、最後に一つだけ聞いてもいいですか?」
「うむ、なんじゃ?」
「信長様は戦国時代のいつから来られたのですか?」
「…やはりそのことか。まあ、お主が聞いてこなかったらワシから話そうと思っておったのじゃが…ワシが戦国時代のいつから来たか、か」
「はい」
少しの間を置いて、彼は言った。
「ワシは、本能寺の変のから来たんじゃよ」
「…え。」
本能寺の変、それはまさに天下を目前とした織田信長が夢半ばで討ち果たされることになった出来事だ。
歴史が正しければ彼はそこで死んだはずだった。
「それってどういうことですか!信長様はそこで自害されたはずじゃ…」
信長は本能寺で自害した、そう言いかけていた時、僕は思い出した。
信長の首が見つかっていないことを。
本能寺の変の後、明智光秀は信長の首を必死になって探したが、結局見つからなかったという。
だから…
「あなたは、本能寺で死んでいない…」
「そうじゃ。ワシもあの時は流石のワシももう駄目だと思った。だから家臣にワシの首ごと爆薬で吹き飛ばすように頼んだ。そして家臣はワシの命令通り、爆薬を使った。じゃがワシは死ななかった。爆薬に吹き飛ばされて意識が途切れた後、再び意識を取り戻したらこの家に来ておった」
彼がこの家に来た時のあの轟音と煙は爆薬のせいだったのか。
「でもなぜ僕の家に」
「それは分からない。何かの偶然か、はたまた意味のあってのことだったのかも知れぬ」
「…では、どうしてあなたはタイムループしたのですか?」
「それも分からない。じゃがワシが思うには、未来を変えるかどうかの選択肢を与えられたのじゃろう」
「それって…」
「お主たちが知っておるように、ワシは本能寺で死んだことになっている。ではワシが生きたままその時に戻ったらどうなると思う?」
僕は彼が言おうとしていることに気づいた。
そして、それが意味することに。
「『織田信長』にその先が生まれる…」
「そうじゃ」
「その先とは光秀を倒すものかもしれないし、はたまた別の何かかもしれぬ。じゃが、それはお主たちの知る歴史の中にはな
いものじゃ。じゃから『織田信長』が戦国時代に戻ってきたら、おそらく未来もまた別のものとなってしまうじゃろう」
『織田信長』が本能寺の変の後も生きていた未来。
「…では、あなたは未来を変えるのですか」
『織田信長』が過去に戻って歴史を変えたら、未来にいる僕らはどうなってしまうのだろうか。
そんなことを考えていると、彼は言った。
「いや、ワシは未来は変えん。」
「…え。でも『織田信長』が本能寺の変の後に生きる歴史なんて僕たちの歴史にはないから、未来は変わってしまいます。」
「ああ。じゃからワシは織田信長として生きない。」
どういうことかと疑問に思ったが、やがてその意味に気づいた。
「それは、あなたは過去に戻ったら『織田信長』を捨てるということですか?」
「ああ。」
確かにそうすれば歴史が変わることはない。
だが、彼は本当にそれでいいのだろうか。
「あなたは、信長様はそれでいいのですか?志半ばで潰えたのに、その歴史を変えられるのに、それでいいんですか?」
彼は言った。
「実のことを言うと、ワシも最初は過去に戻ったら歴史を変えるつもりでいたんじゃよ。じゃが、お主に出会い、この時代を見て考えが変わった。」
「どうして…」
「じゃって、ワシが目指していたのは天下布武、すなわち泰平の世じゃ。そしてこの時代のこの世界はまさしくワシの目指していたものじゃった。だから、未来を変える必要はないと思ったのじゃ。」
確かに今の世界は戦国時代から見たら平和かもしれない。
でも…
「でも…それでも、今もどこかでお腹を好かせている子供もいますし、紛争が絶えない場所だってあります。日本にも夢を持たないままただ自堕落な日々を送る若者もいますし、私利私欲にまみれた汚い大人もたくさんいます。それでも、あなたは未来を変える必要はないと言うのですか?」
「ああ。」
「なぜ…」
「それはな、大河、それはお主たちが変えることだからじゃよ。この時代にまだ残っている問題はお主たちが解決しなければならないものじゃ。」
「そうかもしれませんが…」
「なに、ワシだってあと一歩のところで終わってしまったんじゃ。泰平の世を作ることがいかに難しいかはワシもよく知っておる。」
「だからあなたは過去に戻ったら『織田信長』を捨てるのですか」
「うむ」
「この未来を見て安心して過去に戻れるのですか?」
「ああ。女体化にクリスマス、SNSなどという面白い文化もあると分かったしな。それにワシらの時より寿命も長い」
「…分かりました。」
彼がそれでいいならこれ以上僕から言うことはなにもないだろう。
そして最後に彼は言った。
「世話になったな、大河」
「こちらこそ」
こうして織田信長は元いた時代へ帰り、僕の彼の奇妙の同居生活は終わりを迎えた。