寮生だけじゃなく、職員にも、訳ありな人が多いことをわかっていて言うのだろう。しかも当たらずとも遠からず。私は『なに言ってるの』と軽く流しておいた。
土方さんがいた時代と、現代とはものの考え方自体が違うのだ。なのに土方さんは、よく順応していると思う。
彼が持っていた刀は、まだ管理人室のロッカーにしまわれている。今後、この世界では取り出すことはないと信じたい。
「おい、だらしねえぞお前ら」
「は、はいいっ」
土方さんがひとこと言えば、寮生たちは背筋を伸ばして従うようになった。
あっちこっちに飛んで散らばっていた靴やトイレスリッパはきちんとあるべき場所に落ち着くようになったし、職員に悪態をつくこともなくなった。
ただ、彼がいないところでは息を抜いているようだし、職員への態度も相変わらずだけど。
ある日、夜更けにドアを叩かれた。土方さんだ。慌てて髪の毛を整えてドアを開けると。
「あいつらには、わかりやすい規則が必要だ」
いきなりそんなことを言われた。少しドキドキしていた私は、ぽかんと口を開けた。
「硯と紙を貸してくれ」
さも当然のような顔で言われても。いきなり用意ができるわけない。
私は持っていないことを告げると、土方さんはあっさり部屋から出ていった。と思うと、数分後戻ってきた。手には小学生が使うような、習字道具が一式入ったバッグが握られている。