幕末で名を馳せた新選組副長が、地味な寮母の仕事など務まるわけはないと思っていた。

 なのに、土方さんは存外早く環境に順応していった。

「土方さん、こんな仕事嫌じゃありません?」

 トイレ掃除、風呂掃除。職員が嫌がる仕事も土方さんは文句を言わずにやった。

「俺はここで一番下っ端だからな。ここの常識を守るまでだ」

「はあ……偉いなあ……」

 寮にいる子供たちは、常識を平気で無視する。

 理事長も寮長もゆるゆる……じゃない、大らかなので、金髪にしようがピアスを開けようが、「ファッションは自由」と受け入れるし、ちょっと当番制の仕事をサボったり、寮の設備を壊したり、門限を破ったくらいで追い出すようなことはしない。彼らが動くのは、寮生が法律を破ったときくらいだろう。

 だからか、小さなケンカはしょっちゅうだ。彼らは荒くれ者の集団といった感じで、職員も手を焼いている。

 掃除のあと職員室で事務仕事をしていると、向かいに座っていた波多野さんが、パソコンのキーボードを叩きながらため息をついた。

「一昨日の夜、見回り当番だったんだけど。消灯後もいつまでも騒いでいる寮生がいて困ったよ。人の言うことなんてまるで無視だし」

「それは大変でしたね」