翌日。

 隣の部屋のドアを開けると、土方さんはベッドの上で胡坐をかいて瞑想していた。

 一晩明けたらなにもかもが夢だった──なんてオチも想像していたのだけど、土方さんはまだしっかりと目の前に存在している。

 昨日は寮生が学校に行っている間に、共同トイレの場所を教えた。ボタンひとつで流れる水洗トイレに、土方さんは「おおおぉぉ……」と、いたく感動していた。

「おはようございます。はい、熱を測って」

 私はテーブルに食事をおき、体温計を彼に渡した。使い方を説明して腋の下で計測し、熱が下がっていることを確認する。

「よかった。じゃあ、今日は外に出かけましょう」

 このまま彼を寮で匿い続けることはできない。まず、現代に順応させなければ。

「どこへ?」

 土方さんは目を開き、テーブルの前に正座した。

 彼にとって、ここの食事はごちそうらしい。全て寮生に出すものと同じで、特に贅沢な食材は使っていないが、一汁一菜でお米は麦飯だった幕末に比べると、豪華なのだそうだ。口にあってよかった。

「今日もたくあんがある。かたじけない」

 たくあんを出すだけで、両手を合わせて感謝してくれる土方さんに、つい笑顔になる。寮生なんて、なにを出しても無反応だもん。

「いいえ。食べながら聞いてください。今日はあなたの服を買いに行き、髪を切ります」

「断髪だと。俺を坊主にする気か。いくら恩人の言うことでも、そいつは承諾できねえ」

 土方さんは目を剥き、両手で自分の頭を庇った。

「別に出家するわけじゃないですよ。現代では、男子の髪は短いのが一般的なんです。土方さんもやっていたでしょう」

 私はスマホで、土方さんの洋装写真を見せた。しかしこの写真、戊辰戦争に敗れ、幕府が瓦解してからのものなので、詳しくは本人に説明できない。