三雲柊華が自殺した。
一颯には警察に何かを話したいと言っていた彼女が自殺するとは思えなかった。
その証拠に司法解剖の結果、自殺と思われたが、柊華の死は他殺と判明。
最初は強欲の仕業と思われたが、金目のものが奪われていないこと、強欲というメッセージが無いことから犯人は別にいるという方向で捜査を始める。






「強欲はあれ以来静かですね。それに、強欲が誰なのか、さっぱり掴めない」






瀬戸はべとーと気だるそうに机に突っ伏している。
その傍では一颯と汐里がホワイトボードに書かれた捜査を進める上で明らかになったことを見ていた。
だが、正直手詰まりだった。
犯行の際に目撃者はなく、防犯カメラは機能せず、頼みの綱だった三雲柊華は殺された。
強欲への手がかりは何もなくなった。






「何かスッキリしないな……」





「京さんもですか?俺も何か引っ掛かってるんですけど、それが何か分からないんですよね」






「椎名さんと赤星は再度被害者家族に話を聞きに行ってる。まあ、変わった話は聞けないと思うがな」






汐里はポケットに入れていた愛用の栄養ドリンクを飲み干すと、不味いというように顔をしかめる。
強欲の正体は掴めないまま日にちだけが過ぎていき、疲労ばかりが溜まっていく。
早く犯人を捕まえて、遺族の無念を晴らしたい。
だが、八方塞がりなので、もどかしいにも程がある。






「目撃者無し防カメの映像無し。姿が掴めない強欲……」






目撃者無し。
一切目撃者のない事件はある。
だが、そういう場合は防犯カメラの映像に頼れば見つかる場合がある。
防犯カメラの映像無し。
一切映像が残っていない事件はある。
だが、そういう場合は聞き込みなどで見つかる場合がある。






しかし、今回はそうもいかない。
手がかりになるはずの二つの手がかりがない。
それらが使えない場合の捜査は既に行っているが、手がかりとは言えなかった。
ふと、一颯は赤星が言っていたことを思い出す。






「被害者は皆雲の名字がついている……雲……蜘蛛……」





「そういえば、蜘蛛の中には擬態するヤツもいれば、共食いする蜘蛛もいますよね」






「擬態……共食い……?」






瀬戸はテーブルから顔を上げて、一颯の方を見た。
一颯は蜘蛛が嫌い、虫全般が嫌いなので蜘蛛のことは詳しくはない。
だが、彼の言うとおり擬態する蜘蛛や共食いする蜘蛛がいることは知っていた。
すると、一颯はハッとする。