「分かりました。では、一時間後、うちの署まで来ていただけますか?」






一颯は柊華と約束を取りつけ、電話を切った。





「被害者の娘からか?」





「次女の柊華さんからの電話です。事件のことで話したいことある、と。一時間後、署まで来てもらうことになりました」







「自宅には行かないんですか?」






「全力で拒否された。……自宅では言いにくいことなのかもな」







一颯は汐里と瀬戸の問いかけに答えて、スマートフォンに一応録音した柊華とのやり取りを保存する。
電話越しの彼女は声をひそめていて、隠れて電話していたことが分かった。
まるで、電話していることを誰かにバレたくないようだった。






「あ!」





ふと、赤星が大声を上げる。
その声に驚いた一颯は肩を揺らし、声を上げた赤星は汐里に「驚くだろうか!」と後頭部を殴られていた。
椎名も赤星に「声がでかい」と頭の前の方を叩く。
何かに気付いて上げた声だというのに、彼の扱いは雑だ。






「痛い……。折角気付いたのに、扱いが理不尽……」






「何か分かったんですか?」





しゅんとする赤星に瀬戸が声をかければ、彼はすぐに立ち直ったように背筋を伸ばす。
赤星に立ち直りの早さは捜査一課の中でもダントツだ。
ついでに言えば、皆が気づかない点に気づく場合がたまにある。
今はたまにあるそれである。





「ふっふふ、聞いて驚くなよ。被害者四人共雲が名字についてる!」





「「「「は?」」」」






どやっと言い切った赤星に対し、一颯達の声は冷たい。
確かに被害者四人は皆雲が名字に入っている。
最初の被害者から南雲、雲川、雲野、三雲という名字だ。
雲=蜘蛛というつもりで殺したのであれば、何とも芸が細かい。
ましてはお金持ちばかりと来た。






「強欲は蜘蛛だから雲がつく金持ちを殺害したってか?」





「京、声が怖い」





犯人へとつながるもっと違うところに気づいたのであれば、汐里も声が怖くなったりしない。
赤星はキレ気味の汐里から身を守るために、一颯の影に隠れる。
盾にされた一颯は赤星の行動に慣れっこなので、至って気にしていない。






雲がつく名字のお金持ち。
ならば、すぐに思いつくお金持ちは身近にいる。
誰もが知っている著名人。
しかも、その著名人の息子はこの場にいる。
だが、それに普段そのなで呼ばれないせいか、誰も気づいていなかった。







一時間後。
待てども待てども柊華は署には現れなかった。
その代わりに、一本の通報が入った。
妹が部屋で首を吊っている、と。
その通報をしてきたのは三雲桂夏、柊華の姉だった――。