「うちの話はどうでも良いとして、四件とも犯行は七つの大罪の強欲と断定して良いんですよね?」
一颯は向けられる生ぬるい視線を振り払うかのように、話をそらす。
犯行現場には以前の七つの大罪の事件とは違い、罪名や動物のイラストは残っていなかった。
その代わりに、支援団体などに蜘蛛の包装紙に包まれた高価なものが贈られ、宛名が≪強欲≫になっていた。
今までの事件にはないやり方だったので模倣犯と疑われた。
だが、現状的には模倣犯という方が怪しい。
かといって、犯人は七つの大罪という証拠は強欲と強欲のモチーフである蜘蛛だというだけで、他には何もない。
何せ、目撃者がいないのだ。
「断定に近い推定だな」
「これで目撃者がいたら、完全に断定できるんだがな……」
椎名と汐里はため息を吐いて、これからの捜査についてを話し始める。
被害者全員の自宅には防犯カメラは設置されていた。
だが、犯行時刻は何故か不可解にも映像が途切れていて、犯人は映っていなかった。
恐らく犯人が意図的に防犯カメラの映像を途切れる細工をしたのだろう。
すると、一颯のスマートフォンに着信が入る。
ディスプレイには見知らぬ番号が表示されていた。
誰かと不審に思いながらも電話に出た。
「はい、もしもし?」
『こちらの番号は浅川一颯さんの電話で間違いありませんか?』
「はい、私が浅川ですが……。あの、どちら様ですか?」
『三雲です、三雲柊華。今日うちにいらしたときに名刺を置いていかれましたよね?』
電話の相手は四件目の被害者の次女だった。
一颯は名刺を置いてきたことをすっかり忘れており、柊華に指摘されて何故電話番号を知っているのかをようやく納得した。
電話の内容に、瀬戸が「誰ですか?」というかのように頭を捻る。
一颯は口元に指を当てて、「しー」という仕草を瀬戸に向けた。
「そうでしたね。それで、三雲さんが何故私に連絡を?」
三雲という言葉に、その場にいた者達は全てを察し、一颯に視線を向ける。
刑事らしい、獲物を捕らえようとする猛禽類のような目に、一颯は内心「怖」と思いつつも表情には出さない。
きっと自身も同じ目をしているだろうと思っていたから。
『実は先程お話しできなかったことがあって……』
「お父様の事件に関係したことですか?」
『はい』
「では、ご自宅に今からお伺いします」
『っいえ、自宅には来ないで下さい!私がそちらへ向かいますので』
自宅で話を聞いた方が先方は楽だと一颯は思ったのだが、柊華はそれを制した。
――家族に聞かれるとまずいのか?
そんな考えが一颯の中で過り、不可解と思った桂夏の様子も思い浮ぶ。
父が死んだというのにいたって冷静だった桂夏。
それがもし、被害者の死を知っていたからだとしたら――。