「瀬戸、大丈夫か?」
「眉間に穴開いてる?まじで脳みそ揺れた」
「穴は開いてないから安心しろ。でも、それは脳震盪じゃないのか?本当に大丈夫か?」
一颯は突然アホなことを言い出す瀬戸を本気で心配になり、車を停めようとした。
だが、たまにアホなことを口走るのはいつものことだと思い直し、そのまま車を走らせる。
瀬戸がぶっ飛んだことを言うのは捜査一課に異動してきた数ヶ月前から分かっていたことだった。
「おい、早くぶっ飛んだ頭を正常に戻せ。説明してやらないぞ」
「は!瀬戸司、ただいま戻りました!」
「何だ、この茶番?」
汐里と瀬戸は何だかんだでこの茶番を楽しんでいるようだが、一颯は呆れ気味だった。
実は汐里と瀬戸はたまにこういうところでノリが合う。
それが一颯的には厄介だった。
止めるのが自分しかいないため、放置できないからだ。
「それで、どういうことなんですか?」
「単純なことだ。長女の桂夏は父が殺されることを知っていた。だから、落ち着いてるし、淡々としている」
「でも、それは動揺を通り越した場合にも起こりうることでは?」
瀬戸が言うのはよくある周りがパニックになっていると逆に冷静になるというもの。
現に動揺を通り越して冷静であったとき、ふとした瞬間に思い出して動揺するという経験を瀬戸は何度かしている。
彼だけでなく、一颯や汐里も恐らく経験があることだろう。
「だから、あくまでも仮説だ。どうも、あの長女の様子は怪しい」
「でも、京さんの仮説はほぼ当たりに近いですからね。署に戻ったら、前の三件の事件も洗いましょう。類似点は多いようですから」
署に戻り、三人と椎名と赤星が集めていた他の三件の事件と今回の事件を照らし合わせる。
一件目の被害者はIT関連会社の社長、二件目の被害者は貿易関連会社の会長、三件目が大手製造メーカーの専務、四件目が大手銀行の頭取。
皆世間一般的には有名で、金銭的も裕福な者達だ。
殺害された現場は四件とも自宅。
一件目の被害者は独身。
二件目の被害者は妻と二人暮らしで、事件当日妻は友人と食事に行っていて不在。
三件目の被害者は離婚協定中の妻と子供一人がいて、別居中。
四件目以外は被害者以外自宅に人がいないため、犯人の目撃者は皆無。