「私がやりました」





その後の取り調べで、猿渡は白樺組襲撃と組員殺害を認めた。
動機は姉を殺されたことへの復讐。
だが、その動機は《あの人》から頼まれたということを隠すためのカモフラージュだろう。
実際姉を殺されたことへの復讐というのも間違いではないのだが。






「何故瀬戸の同席を拒んだ?」






取り調べは一颯と汐里で行っている。
何故か、猿渡は瀬戸が取り調べの際に同席することを拒んだ。
先程の瀬戸を見たときの驚いたような顔といい、同席を拒むことといい、猿渡は瀬戸を知っているようにしか感じられない。
汐里の問いに、猿渡は黙秘するというように首を横に振る。






「ならば、《あの人》とは誰だ?」






「言えません。ただ一つ、貴方がたに忠告しておきましょう」





「忠告?」






「《あの人》は傲慢です。人の皮を被った悪魔は神室ではなく、《あの人》の方が相応しい」






猿渡が話したのはそれだけだった。
それ以降は白樺組襲撃のことや神室のことは話しても、《あの人》のことは一切話さなくなった。
《あの人》と呼ばれる人物は傲慢。
それは性格のことなのか、それとも――。





「京、浅川。ちょっと良いか」





取り調べを行っていたら、椎名が少しだけ開けた扉から二人を手招きする。
一颯と汐里は同席していた警官に猿渡のことを任せ、取調室の外に出た。
そこには椎名と赤星、瀬戸の姿があった。






「《あの人》について再度可我士と優木に聞いてきた。だが、どちらも黙秘だ」






「優木に限っては『実の詰まってない脳みそで誰か検討つけてみたら?』だと。クソ腹立つ。そっちはどうなんだ?」





ため息を吐く椎名に対し、赤星は苛立ちを露にしていた。
赤星の場合、怒っていてもポメラニアンみたいな外見のため怖くない。
寧ろ、必死に自分を大きく見せようとしているポメラニアンのようでかわいらしく見える。
本人には言えないことだが。





「猿渡も基本的に《あの人》のことは黙秘だが、少しだけ話した」






「まじでか」






汐里は驚く赤星をよそに壁に寄りかかると、一颯の方を見た。
一颯が詳しく話せという意味のようだ。







「《あの人》というのは傲慢、神室よりも人の皮を被った悪魔のようだと猿渡は言っていました」






一颯は先程の猿渡の証言を取調室にいなかった三人に伝える。
《あの人》とは七つの大罪の罪人で、《傲慢》を司っているのは大体見当がつく。
だが、人物像が浮かばない。
浮かんでいても、その人物は傲慢とは程遠い性格をしている。