猿渡はあっさりと自身が七つの大罪の罪人であることを認めた。
それは一颯たちには願ったりのことだが、まだ聞くことはたくさんある。
一颯は動揺で声が上擦らないように、一度咳払いをした。
「では、これは貴方ですか?」
一颯がテーブルに置いた二枚の写真。
一枚は二年前の一颯と汐里が拉致監禁された際に撮られたもの、もう一枚は白樺組を襲った際に撮られたものだ。
どちらもピンぼけしていたものを修正しているため、多少画質が悪い。
だから、言い逃れできなくもない。
「はい、私です。二年前貴方達の拉致監禁の手助けをしたのも、白樺組を襲ったのも」
「何故そんなにもあっさりと犯行を認める?」
瀬戸が問いかければ、一瞬猿渡の表情が驚いたような顔に変わった。
だが、それはすぐに穏やかなものに戻る。
それに瀬戸が気付いたかは分からないが、一颯と汐里は見逃さなかった。
今の猿渡の反応は瀬戸を知っているような雰囲気だった。
二人は初対面のはずだというのに。
「私の意思で行ったわけではないからです。私は《あの人》に頼まれ、《あの方》に頼まれたからです」
「また《あの人》……。貴方のいう《あの人》というのは誰だ?」
「いくら《あの方》の、神室のお気に入りの貴方と言えど言えませんよ、東雲一颯君」
今の猿渡の話で、《あの方》が神室であることはわかった。
だが、《あの人》のことは可我士同様に話そうとしない。
可我士と猿渡が言う《あの人》が同一人物像であれば、何か聞けるかもしれなかったというのに。
ふと、一颯は一つ疑問を抱く。
「貴方は今回の事件は自分の意思ではないと言った。でも、現場の状況からは怒りが感じられた。それでも、自分の意思ではないと?」
現場は物が散乱し、抵抗した被害者が発砲した弾痕が残っていた。
血痕も至るところに残っていたし、何より被害者全員が重傷を負い、その中の一人は死亡している。
それだけのことをしておいて、己の意思ではないと言い切るには些か無理がある。
猿渡は目を閉じると、深く息を吐いた。
そして、目を開けて、まっすぐ一颯の方を見た。
先程と変わらない穏やかな眼差しだった。
それが今はどうも不気味に思えた。
「私は生まれてこの方、怒りというものを感じたことがありません。怒りがどんな感情なのかも分からない」
「それなのに、憤怒を名乗るか」
汐里は目を細めて、猿渡の坊主頭に彫られた猿のタトゥーを睨む。
七つの大罪の憤怒のモチーフは猿。
憤怒という罪は怒りを感じたことがない猿渡には不釣り合いのように思えた。
だが、妙に納得してしまう部分もある。