それから程なくして、一颯たちは目的地である××にある教会に来ていた。
此処に七つの大罪の憤怒、猿渡がいるとされている。
だが、一颯たちは教会で見た光景に驚きを隠せずにいた。
「先生ー!こっちこっち!」
「早く早く!」
「ちょっと待ってください、今行きますから」
教会は孤児院も併設されているようで、身寄りのない子供たちがいた。
その子供たちに手を引かれている坊主頭に猿のタトゥーが彫られた男、猿渡だった。
どうやら、猿渡は孤児院の先生と呼ばれる立場の人間らしい。
子供たちに向かって微笑む猿渡の姿は人に暴力を振るうような男には見えなかった。
ふと、猿渡が一颯たちの方を見た。
穏やかそうな顔は本当に犯罪者のようには見えない。
だが、どんなに穏やかそうな顔をしていても疑いが晴れるわけでもない。
人に表と裏の顔があるのは一颯は警官になって、痛いほど身にしみている。
「すみません、警察です。少しお話をよろしいでしょうか?」
一颯が警察手帳を見せれば、猿渡は「そろそろ来ると思っていました」と目を細めた。
猿渡は子供たちを他の先生に預け、一颯たちを中へ案内する。
教会の中の応接室に通され、三人が椅子に座れば目の前に紅茶が置かれた。
「どうぞ召し上がってください。毒なんて入れてませんから」
猿渡は一颯たちに紅茶を勧めるが、三人とも手をつける気はなかった。
七つの大罪の罪人と思われる男が入れた茶など、飲むわけがないのだ。
毒を入れていないなんて口ではどうとでも言える。
「……あの子供たちは?」
口を開いたのは汐里だった。
教会に孤児院が併設されているのは珍しくない。
此処へ来る前に見た資料にも教会が孤児院を経営していることは目にしている。
そして、経営している男の名前は猿渡千樹、教会の神父だ。
七つの大罪の罪人、憤怒である疑いのある人物だった。
「あの子たちは犯罪遺児です。身内を殺され、身寄りをなくした子供たちです」
「七つの大罪の罪人が犯罪遺児を引き取っている?滑稽だな」
鼻で笑った汐里に、一颯はぎょっとする。
犯罪者といえど、善意ある行動を笑うのはさすがにどうかと思う。
彼女が自身の善行を鼻で笑ったというのに、猿渡は怒ることはなかった。
穏やかに笑っているままだった。
猿渡は本当に憤怒を司る罪人なのかと疑ってしまうほど、穏やかだ。
まるで、怒りという感情が抜け落ちてしまったようだった。
「滑稽であろうと、これは私がやりたくてやっていることです。神室もそれを承諾しています」
「……それは七つの大罪の罪人であることを認めたと取っても良いのか?」
「ええ。構いませんよ」
汐里が目を細めれば、猿渡は立ち上がって恭しく頭を下げた。
そして――。
「初めまして。私は七つの大罪が罪人、憤怒」
穏やかに笑った。