「京さん、二年前の《グリースペルディア》って覚えてますか?」
「覚えてる。無色透明、無味無臭、固形にも液体にも精製できて、依存性が極めて高い。七つの大罪が作り出したクソドラッグだ」
汐里は持ってきたタブレットに二年前の事件の捜査資料を映し出す。
瀬戸はその頃はまだ交番いたので詳しくは知らないのか、汐里のタブレットを後ろから覗き込んでいた。
グリースペルディアの出所は七つの大罪と分かっていたが、何せ七つの大罪自体が所在不明の組織だ。
規制するにもそれに値する証拠がなく、二年経った今でも世に存在し、中毒者や逮捕者を出している。
「それがどうしたんですか?」
「その時の被害者はグリースペルディアの売人をやっていた。そして、その被害者を売人として雇っていたのは……」
「白樺組」
汐里の言葉に、一颯は頷く。
「待ってください、それが白樺組の奴らが久宝首相を襲撃したことと何の関係があるんですか?」
「四宮さんの資料によると、七つの大罪と白樺組の間でグリースペルディアのやり取りが最近途絶えているらしい。……久宝首相が襲撃される前を境に、だ」
汐里の言葉で、一颯の頭の中では一つの仮説が出来上がった。
七つの大罪と白樺組、久宝は癒着していて、白樺組と久宝の間で何らかのトラブルがあり、久宝は襲われた。
そして、久宝は七つの大罪の憤怒に白樺組を襲撃させた。
だが、この仮説の場合、久宝が七つの大罪という犯罪組織に属しているということになる。
国のトップが犯罪組織に属しているなど国内だけでなく、海外にまで混乱が生じてしまう案件だ。
「……浅川、お前はどう考えてる?」
「俺は久宝首相が憤怒に白樺組を襲わせたのではないかと思ってます」
「つまり、久宝首相と七つの大罪は癒着している、と?」
一颯は信号で停まると、汐里の方を見た。
タブレットを見ていた彼女の視線は一颯に向けられていて、一颯が今から言おうとしていることを分かっているようにも見えた。
瀬戸の方を見ても同じだった。
二人とも一颯が言わんとしていることを分かっていて、それを信じようとしてくれていた。
「癒着というより、俺は久宝首相が七つの大罪の罪人ではないかと疑っています」
久宝という男はどうも怪しい。
国のトップとしては優秀で国民からの信頼は厚い。
恐らく、一颯の父の久寿も久宝を信頼していることだろう。
だが、今回の事件と白樺組の久宝襲撃事件は切っても切れない何かで繋がっているように感じられて仕方ないのだ。
何かとは言わずもがな、グリースペルディアと七つの大罪だ。