「浅川さんが性格が悪いのは薄々分かってました。でも、刑事としては優しいからその悪さが表立って目立たないだけで」
一颯の考えは杞憂だった。
寧ろ、瀬戸は褒めているようで貶しているようなことを口にする。
それに驚く一颯の隣で、汐里は腹を抱えて笑っていた。
そして、一颯の背中をバシバシと叩く。
「お前の性格の悪さは後輩のお墨付きだったな!まあ、私と相棒をやれてる時点で性悪だ」
「痛ッ!?……貴女の傍に居続けたら、もっと性悪になるんでしょうか」
「さあな。気になるなら、居続けたら良いんじゃないか?」
そんな会話をしている二人に、瀬戸は「今のって捉え方によってはプロポーズだよな?」と心の中で思う。
口に出さないのは二人に「は?」と言ったような顔をされるからだ。
二人の中ではお互いただの相棒、傍目から見たら両片想いのもどかしい関係。
まだ二人との付き合いが短い瀬戸でさえ、内心さっさとくっつけと思う。
「瀬戸、そこで何してる?さっさと行くぞ」
一颯に呼ばれ、瀬戸は気付かないうちにさっさと行ってしまっていた二人の後を追いかける。
これから可我士が教えてくれた憤怒こと猿渡の所へ向かう。
その車中、汐里のスマホに椎名から連絡が入った。
憤怒に襲撃され、意識不明の重体の組員が死亡したという連絡だった。
すると、後部座席にいた瀬戸が捜査資料を見て「あ!」と声をあげる。
運転中の一颯は瀬戸のバックミラーで確認するが、助手席の汐里は椎名と通話をしながら後ろを振り返った。
椎名との電話が終わったのを見計らい、瀬戸は捜査資料を汐里に見せた。
「死亡した男、久宝首相襲撃の際の主犯みたいです!」
「主犯……。主犯と分かっていながら何故捕まってない?」
「久宝首相が大袈裟にしたくないと被害届は出さなかったと書いてありますが、真意は不明です」
久宝が襲撃されたことは警察内部と国会議員の一部しか知らない。
襲撃されたのが、プライベートで訪れていた人目から離れた別荘だったこともあり、襲撃自体を表沙汰にしなかった。
表沙汰にしたところで、利点など何もないからだろう。
だが、引っかかる。
久宝は支持率の高い首相だが、暴力団に襲撃されるような《何か》を隠している。
白樺組は暴力団の中でも中堅的な位置にいて、違法薬物を製造し国内だけでなく、海外にも売り付けているという話だ。
ふと、一颯は二年前の事件を思い出す。