「無理に話さなくて良い。仲間だった奴のことを話せって言われても話しづらいよな」




そんな可我士に優しく声をかけたのは一颯だった。
更正しようとしている少年の気持ちを利用して話を聞こうなんて、更正を望む大人がすべきことではない。
何より無理強いするようなことはしたくない。
可我士は一颯の優しい声に唇を噛むと、ゆっくり口を開いた。





「その人は七つの大罪の《ira》、憤怒です。本名は知りませんが、神室からは猿渡と呼ばれてました」





「猿渡?だから、サルのタトゥー……」




「七つの大罪の憤怒の動物のモチーフが猿なんです。俺が蛇だったように」





可我士の首には蛇のタトゥーが入っている。
それは彼が七つの大罪の嫉妬であった証拠だ。
首に巻き付くように彫られたタトゥーはまるで、可我士の首を絞めているようにも見える。
可我士の罪を戒めるように。






「そうか。優木にも話を聞こうと思ったが、可我士だけで良さそうだな」





汐里が満足げな顔をすると、可我士は不思議そうに頭を捻る。
彼は七つの大罪の暴食が逮捕されたことを知らない。
この機会だ、と一颯が暴食が逮捕されたことを可我士に教えた。





「七つの大罪の暴食、優木ちづるが逮捕されたんだ。つい、先日だ」





「暴食まで捕まったんですね……。それに、今は憤怒まで動いてる……。ってことは、いずれ《あの人》も――」






「あの人?」






耳が良い汐里がボソボソと話している可我士の独り言を聞き、鸚鵡返しをする。
だが、可我士は「何でもありません」と首を横に振る。
その反応は今までには無いほどに怯えている。
あの人とは恐らく神室ではない。
可我士が怯える存在はもうこの世にはいないはずなのに、彼は怯えている。
七つの大罪には神室以上に恐れるべき人間がいるようだ。





「浅川、お前も性格が悪くなったな」





拘置所から捜査一課のフロアに戻る途中、汐里が意地悪そうな顔で一颯を見た。
一颯自身、性格が悪くなった自覚はある。
何せ、一颯は憤怒の情報を聞き出すために可我士を利用した。
更生を望み、無理強いするようなことはしたくないと思いつつも、捜査の進展を優先させたのだ。
結果、憤怒の名前と居場所を突き止めることが出来た。




一颯はバレてたか、というように苦笑いを浮かべると、瀬戸の方を振り返った。
いつも犯人を最後まで信じようとしている一颯。
そんな彼が見せた一面は瀬戸にはどう見えていただろうか。
矛盾してる、とでも思っているのだろうか。