「あー!思い出した!」
署に戻って捜査一課のフロアに戻った一颯は捜査資料を見ていた。
すると、突然汐里が隣のデスクで立ち上がり、一颯と瀬戸、周りにいた刑事がビクリと肩を揺らす。
先程といい、今といい、今日の汐里は些か心臓に悪い。
「いきなりなんですか、京さん!?」
「こいつだ、こいつ!」
睨み付ける一颯に、汐里は二枚の書類を見せてきた。
一颯がそれを受け取ると、瀬戸も覗き込んでくる。
その書類には暴力団事務所を襲った犯人の写真と、別の事件の容疑者の写真があった。
その事件は二年前に一颯と汐里が七つの大罪の教祖、神室志童に拉致監禁されたときで、拉致に関わったとされて行方を追っていた男だった。
「帽子を被ってて坊主かは分からんが、この男だ。私の頭をぶん殴った男!」
「確かに似てますね……。ですが、この男も所在不明ですよね?何の手がかりにもなりませんよ」
瀬戸の言うとおりである。
所在不明の男と今回の事件の容疑者が同一人物と仮定する。
だが、元々所在不明の男を容疑者として探すのはかなり難しい。
所在不明どころか、名前すらも分からないのだ。
「手がかりはある。留置所には七つの大罪の罪人が二人もいるからな」
「あ!可我士と優木!」
汐里がいう前に一颯がそう言えば、瀬戸は納得したような顔をする。
七つの大罪の罪人同士の交流はどれ程あるかは分からない。
それに加え、二人が仲間の情報を話すかも分からない。
だが、今は捜査を少しでも進展させるためにはわずかな望みであってもすがる。
一颯は汐里と瀬戸と共に留置所の可我士と優木の元へ向かう。
「お久しぶりです、お三方」
透明な板を挟んで対面した可我士は付き物が取れたように、穏やかな顔をしていた。
少し痩せたようにも見えるが、最初に会ったときと比べて顔色は良い。
人を殺しておいてどうかと思うが、可我士には今の方が平穏なのかもしれない。
「それで俺に聞きたいこととは?」
「この男のことを知っているな?」
汐里は持ってきた鞄から今回の事件の容疑者の男の写真を見せる。
一瞬写真を見た可我士が戸惑ったのが見て分かった。
この様子を見る限り、彼はこの男のことを知っている。
だが、無理に聞くのは子供相手に申し訳ないので、自分から言うのを待つ。
可我士は少しの間黙りこむ。
話すべきか、黙っているべきか悩んでいるのだろう。
その判断は犯罪組織にいたといえど、子供には難しい判断だ。
話して得になるのは警察。
仲間として共にいた男のことを売るのは裏切りとも取られ、可我士の身に危険が及ぶ可能性がある。