「我々の仕事は疑うことです。 たとえ、潔白であったとしても潔白である事実が分かるまで疑い続けます。それが誰であっても」





そう言ったのは一颯だ。
警察の仕事は疑うこと。
それは刑事である限り切っても切れない感情だろう。
誰だって疑いたくて疑うわけではない。
だが、疑わなければ、何も変わらない。
信じるだけでは何も変わらないのだ。






「俺は出来るだけ信じたいと思います。ですが、潔白であると明らかになるまでは疑います」






「それが総理大臣である私でも?」






「はい。そこにいる父であっても、です」





一颯と久寿の目が合う。
父は不正をするような人物ではない。
だが、何かあれば疑う。
それが一颯の仕事で、刑事になると決めた息子の仕事だ。
久寿に「それで良い」というように頷くかれた一颯は心苦しさを感じる。






「ですので、ご容赦下さい」





一颯が頭を下げれば、汐里達も続くようにして頭を下げる。
すると、久宝の小さなため息が聞こえた。





「東雲君、やっぱり一颯君を私の娘の嫁にくれないか?」






「それはちょっと……。久宝首相の娘さんはまだ小学生じゃないですか。うちの息子を犯罪者にさせる気ですか?」





「いや、あと十年もすれば二十歳になるぞ。それなら――」





「何でそうなるんですか!?四宮さん、あとは頼みました!京さん、車で待ちましょう!」





「お、おう……」





また見合い云々の話になっている子を持つ父親二人に一颯は苛立ち、汐里と共に車へ戻った。
一人残された四宮には悪いが、あの場に汐里を残したら余計なことを吹き込まれそうだったので連れ出した。
特に父から。
妹の話では見合いに関して父は良からぬことを考えているという。






「本当に東雲官房長官は愉快なお人だな。浅川、お前も少し見習ったらどうだ?」





「結構です。見習ったところで何の得があるんですか?」





「無いな。寧ろ、多分私が腹立って殴ると思う」





「……俺が逃げたくなるの分かるでしょう?」





一颯はハンドルに額を乗せると、ため息を吐く。
ため息を吐くと幸せが逃げるというが、つい吐いてしまう。
そんな一颯をよそに、汐里は四宮からコピーで貰った容疑者の男の写真を見ていた。
一見、坊主頭の人が良さそうな男だ。
だが、実際は暴力団相手に素手で挑んで勝った男である。






「この男、何処かで見たんだよな……」





汐里は顎に手を当てて、思案げに写真の男を見ている。
だが、思い出せないようだ。
そうこうしているうちに、四宮が車に戻ってきた。
彼が戻ってきたことで、一度三人は署へと戻った。
車内で一颯の身の上を四宮に問い詰められたのは言うまでもない。