「東雲官房長官の息子さん……一颯君だったかな?パーティーの時も思ったが、刑事とは立派なものだ」





一颯と汐里、四宮の目の前には現首相の久宝が座っていて、その後ろには久寿の姿があった。
多忙な久宝が聴取の時間を取ってくれたのは一颯の、久寿の息子というコネを使ってのことだ。
一颯の本来の身の上を知らない四宮は混乱しているのか、強面の顔が更に厳つくなっている。






「どうしてくれるんですか、京さん。四宮さん、固まってるじゃないですか」







「私は捜査の為なら使えるものは使う。政治関係のコネはお前が一番手っ取り早い」






「そういう問題ではなくて……。あぁ、また面倒な説明するはめになった……」





一颯は汐里に小声で文句を言うが、彼女はバッサリと切り捨てる。
汐里は根っからの刑事の性格なので、捜査の為ならあらゆる手段を使う。
その結果がこれなので、一颯は四宮に自身の身の上を説明しなくてはならないことになる。
いずれ、警察中に一颯の身の上が広まってしまいそうだ。





おまけに今回の聴取の時間を取るために、久寿に借りを作ってしまった。
その証拠に、一颯を見る久寿の顔は繕ってはいるが、微妙に目元が下がっている。
何か良からぬことを考えている時だ。
一颯は父の考えていることが大体読めるので、小さくため息を吐く。




「それで、白樺組について聴取をしたいということだが、襲撃事件で何か進展でも?」





久宝は既に白樺組に襲撃された時点で、聴取を受けている。
聴取によれば彼と白樺組の間に接点はなく、何故襲撃されたのかも分からない。
逮捕された白樺組の組員は取り調べに黙秘しており、自白していない。
襲撃事件に関しては進展はなしだ。






「申し訳ありません、その件に関してはまだ進展はありません。今回は白樺組の組員が何者かに襲撃されたことについてお聞きしたいのです」





我に返った四宮は久宝の前に一枚の書類を置いた。
それには坊主頭の男が一人映っている。
久宝の聴取の前に丁度防犯カメラの解析が終わり、犯人と思わしき男が浮上。
犯人と久宝との接点を調べるため、四宮が防犯カメラの写真を資料として持ってきていたのだ。





「この男をご存知ありませんか?」





久宝はテーブルに置かれたそれを取り、じっくり見た。
映っていた男は坊主頭で穏和そうな顔立ちをしていた。
背が高く、がたいがいい。
坊主頭にはサルのタトゥーが入っている。
一度見たら忘れないであろう姿だ。





「……いや、知らないな。もしや、私がこの男に頼んで、白樺組を襲撃したと疑っているのか?」






「いや、それは……」







久宝の鋭い眼差しに、普段暴力団相手に捜査を行っている四宮も返答に困っていた。
相手は国民の信頼が厚い国の長。
何か下手をすれば、警察組織の存在が批判の的になってしまう。
総理大臣相手ではさすがの汐里もどうフォローすべきか悩む一件だ。