すると、瀬戸はスマートフォンに着信が入った。
ディスプレイには麗の名前。
麗は早速父のところに行って、一颯の身の上を聞いたのだろう。
瀬戸は心底嫌そうな顔をしながらも電話に出た。
「もしも――うぉ!?声でかっ!」
瀬戸は麗の焦りの大声に耳からスマートフォンを離した。
そのお陰で一颯や汐里にも丸聞こえだ。
「ヤバい!お兄ちゃん!私、沈められる!」「ちょっとお兄ちゃんから何か浅川さんに言ってよ!」という焦った麗の声に、一颯は頭を押さえる。
「沈めるってなんだよ……。署長は何て説明したんだ?」
「沈めたりはしないよな、さすがに。というか、お前や官房長官は何もしないだろ」
「したところで、公になったら叩かれるのはうちですからね」
腹が立つからマウントを取ってやったが、余計に面倒になった。
一颯は瀬戸からスマートフォンを借りて、麗に弁明する。
スマートフォン越しに頭を下げている麗が想像できた。
だが、一颯が「何もしないから」と言えば、手のひらを返したように先程の調子に戻った。
変わり身が早いものだ。
「スマホ返す。お前の妹、図太い神経だな」
「すみません、本当に。父には俺からも弁解します!浅川さんには何もさせません!」
「もしもん時は私と課長も署長に談判しに行くから安心しろ」
瀬戸は頼りないが、汐里と司馬ならば頼りになる。
いや、寧ろ喧嘩にならないかが心配だった。
だが、一颯には署長である瀬戸の父が自身に何かするような雰囲気には思えなかった。
瀬戸の父は正義感の強い人物。
子供には甘くとも、こう言ったことで部下の甲乙をつける人物ではない気がする。
「多分、大丈夫です。署長が俺に何かするように思えないので」
「親バカだぞ?息子が優秀だと思い込んでヘタレをうちに寄越すくらいだぞ?」
「し、辛辣……」
汐里は本当に本人を目の前に手加減がない。
お陰で瀬戸の胸に『親バカ』『思い込み』『ヘタレ』という形の矢がグサグサと刺さる。
彼女の言葉はもっともなのでフォローし難いが、一颯は一応フォローしておく。
「大丈夫ですって。署長は正義感の強い人で、何となくうちの父に似てますから」
そう汐里を言いくるめて、一颯は聞き込みに行くために車へと向かうのだった。