今回の事件の被害者はカジュアルレストランの女性シェフ、優木ちづる。
三十代半ばでありながら某有名ガイドで二ツ星を貰う程の腕を持つ。
恨みを買うような人柄とは程遠く、穏やかで従業員からも慕われていたとのこと。
容疑者はシフトが被っていた三人。
三人ともフロア担当で、厨房は被害者一人で切り盛りしていたとのことだった。
一人目はフロアのチーフ、風見傑。
二人目はアルバイトの室井一真。
三人目もアルバイトの安食ミチル。
「風見は被害者と交際しており、婚約者でもありました。安食は被害者の姪で ――」
「室井はどうした?聴取したんだろう?」
捜査会議で聴取の結果を説明する一颯だったが、周りから突っ込みが入る。
容疑者と思われる三人から聴取は行った。
だが、その聴取を行った汐里が室井相手にガンを飛ばしていたせいか、室井が怯えてしまい聴取という聴取が出来なかったのだ。
おまけに室井に向かって、瀬戸の妹の探偵気取りの「犯人は貴方だ!」宣言で、めちゃくちゃになった。
一颯は全てを説明するべきなのか、悩んでしまう。
しかし、周りから「どうした?」「聞こえてるのか?」という言葉に答えなくては!という結論を導く。
再度説明をしようとした一颯だったが、隣に座っている汐里が立ち上がったことでそれは阻まれた。
「室井に関しては聴取の結果で確実にシロだと判断し、私が説明の必要がないと浅川に指示しました」
「シロという根拠は?」
「捜査を進めれば分かることなので、割愛します」
「そんな理由で――」
「構わん。浅川、聴取の続きを話してくれ」
汐里の反感を買いそうな言葉に一颯はハラハラしていた。
第一一颯は汐里にそんなことを言われた覚えはない。
汐里は何かを隠そうとしている。
それはもしかしたら、汐里が室井相手にガンを飛ばしていたことに関係しているのかもしれない。
一颯は聴取の結果を話し終え、着席する。
隣では汐里があちこちから睨まれているが、本人は気にしていない。
捜査の進捗を遅らせる可能性があるというのに、汐里は詳しい話を割愛した。
そして、そんな汐里を庇ったのは捜査一課課長の司馬である。
周りは、汐里を良く思わない一部の刑事は気に入らないだろう。