「……何ですぐ父親に頼るんだろ。俺、絶対頼りたくないんですけど」
「……お前はもう少し頼ったらどうだ?東雲官房長官がかわいそうだ」
「嫌です。あの男、見合いは断ったのに、毎日見合い相手の写真送ってくるんですよ?昨日も母の誕生日で、gulaに食事に行ったときも見合い見合いって……」
「おぅ……まあ、孫見たさだな」
さすがの汐里も久寿の奇行に引いていた。
孫が見たい。
それは子を育てた親ならば、子の子を見たいと思うのが自然なのかもしれない。
だが、結婚適齢期に迫りつつある一颯はまだ結婚も子供も望んでいない。
それでも、もし、結婚して子を成すのならば――。
「ん?何だ?」
「いえ、何でもありません」
自然と向けた先にいた汐里に一颯はばつが悪くなり、視線をそらす。
自身が彼女を望んでも、彼女は求めてくれないかもしれない。
今は相棒でも来年になれば、異動になる可能性がある。
そうなってしまえば、汐里は一颯をどう見るだろう?
今は相棒として見てくれていても、相棒でなくなれば――。
一颯はネガティブになりかけて、頭を振るう。
今はそんなことを考えている場合ではない。
もともと言えば、父親である久寿が孫が見たいから見合いしろと言ってきたことが悪いのだ。
それがなければ、こんなことを考えずに済んだ。
「あのクソ親父……」
ポツリと毒を吐いて、ため息を吐く。
一颯の様子が変なことに気付いた汐里だったが、聞いたところで誤魔化されて終わりだと思い、聞かずにいた。
汐里は一颯が何か悩んでいるならば言って欲しいと思っていた。
だが、一颯は汐里に弱音をあまり吐かなくなったが、それが嬉しくもあり、複雑でもあった。
「京さん?」
「行くか。後ろのうるさい兄妹喧嘩は放置、関わりたくない」
一颯は汐里の言葉に頷き、歩き出した。
騒がしくも兄妹喧嘩を続ける瀬戸と麗は先に行ってしまった二人を慌てて追いかけた。
インターンが終わるまであと2日。
一颯は先のことが思いやられつつも、事件の捜査へと頭を切り替えるのだった。
ちなみに散々息子に噂されていた久寿は公務室でくしゃみをしていた。
手にはスマートフォン、ディスプレイには着物姿の育ちが良さそうな女性が映っている。
息子に見合い相手と送りつけている女性の一人だ。
「長官、風邪ですか?」
「いや、息子か娘か嫁が噂でもしているんだろう」
「でしょうね。いい加減見合い相手の写真を送りつけるの止めたらどうですか?嫌われますよ」
「嫌われないだろう。最後に送りつける写真を見ればな」
ニヤリと笑う姿は普段の凛とした官房長官とは似ても似つかない悪ガキの顔だった。
そんな久寿の姿に、秘書は呆れてため息を吐くのだった。
ちなみに秘書の名前は東雲貴永、久寿の実弟であり、一颯の叔父である。