「お前が《嫉妬》か?」





汐里がゆっくりと近付いてきた。
彼女の声音には先程まではなかった怒気が込められており、一颯は可我士の胸ぐらを掴んだまま息を飲む。





「そうだよ。俺が《七つの大罪》の罪人が一人、嫉妬(invidia)






「何故、連続放火を行った?」






「最初の三件はただの予行練習。メインは蛇山の家を焼くことさ」






「何故?」






「薄々分かってるくせに」






可我士は馬鹿にしたような目で一颯達を見た。
確かに薄々は感じている。
だが、それは蛇山邸を焼いたのが日頃の虐待が原因だと仮定した場合による。
かといって、他に理由は見当たらない。





「俺はね、赤ん坊の頃に子供が出来ないと言われた蛇山夫婦に養子として引き取られた。最初は男で、血が繋がりがないとは言え愛されてた。でも、妹達が生まれて、それはなくなった」






蛇山夫妻は妻が妊娠をしづらい体質で子供は望めないと医師に言われ、養子を引き取った。
だが、夫妻は一縷の望みをかけて、不妊治療を続けた。
その結果、二卵性の双子の姉妹を授かり、
望んで出来た我が子に夫妻は手放しに喜んだ。
それが可我士の運命を大きく変えた。






血が繋がりがないとは言え、長男だった可我士は父の後継として大切に愛情を注がれて育てられてきた。
だが、血の繋がりのある実子が二人も生まれたことでそれは途切れ、邪魔者扱いされるようになった。
子供が生まれたからと簡単には手放せない養子の息子。
夫妻、特に妻からは目の敵にされた。





「養母は俺が養父が外に作った愛人の子だと思ってたんだ。でも、自分に子供が出来ないからそういう方法を取ったのだと割り切っていたらしいが、自分の子供が出来れば元々好かない愛人の子なんてどうでもいい」





実際、可我士は養父との血の繋がりもない。
それはDNA鑑定で明らかになっており、可我士は完全に赤の他人だった。
表では仲の良い家族を繕っていたが、裏では血の繋がりのない養子の息子を虐げていた。
本当の両親は聞いた話によれば、堕ろす金がないから彼を産み、捨てた。
本当の両親からも望まれなかった、家族として迎えてくれた人達からも望まれなくなった。
それは可我士にとって絶望でしかなかった。