「そう言えば、彼は?」





一颯は頭を擦って、ウーロン茶を飲みながら瀬戸の方を見た。
彼、可我士の監視をしていたのは瀬戸だ。
汐里は久寿に協力を扇いだために危険が迫らないか、一颯と共にそっちを監視していた。
すると、瀬戸はついっと視線を反らす。





「瀬戸?」





グラスを置いて立ち上がった一颯は瀬戸に詰め寄る。
彼のあまりの圧に瀬戸は後ずさるが、後ろには汐里がいてそれ以上は下がれない。
という前に、汐里が瀬戸が拳骨を落とした。
言葉よりも手が早いのが汐里だ。






「いってぇ!?」





「お前、見失ったなら素直に言え」





「言ったら、絶対拳骨じゃないですか!?」





「言わなくても拳骨だけどな。で、見てたんでしょう?京さん」






一颯は痛みでしゃがみこむ涙目の後輩の頭を撫でてやると、汐里を見やる。
彼女のことだ、新人の瀬戸を信用しきって監視を任せていた訳ではないでろう。
実際、汐里は一颯達を見つつも彼の様子を監視いたように見えていた。
そして、彼が何かアクションを起こしそうだから此処に来たのだろう。





「見てた」





「信用ないな、俺!?」





「それで、彼は?」





「ん」






汐里は顎でパーティー会場を出ていこうとしている彼を差す。
彼が向かっている方向にはトイレや出入り口があるわけでもない。
つまり、は――。
一颯達は静かに彼の後を追いかけた。





そして、たどり着いたのはパーティー会場であるゲストハウスの配電盤が設置されている部屋だった。
彼はブレーカーに触れることなく、奥の方へ進んでいく。
それに続いて、一颯達も奥へ進んでいく。
ふと、彼のブツブツと言った一人言が聞こえた。






「何が父を誇りに思うだ……俺は誇りなんか抱いたことない。何が自慢の息子だ……俺はそんなこと言われたことない……」





薄暗い、配電盤の光だけの室内で聞こえる一人言は不気味だ。
彼はポケットをまさぐったかと思えば、ライターを取り出した。
カチッとした音共に炎が現れ、その炎が彼の顔を怪しく照らす。
彼――可我士の顔は感情が抜け落ちたかのように無だった。






「止めろ!」






一颯は可我士を止めるために駆け出し、腕を掴むとライターを奪い取る。
そして、そのまま胸ぐらを掴み上げた。
その時にシャツの襟首が緩み、そこにあるタトゥーが目に入った。
首に巻き付くように彫られた蛇のタトゥーだった。