「いやはや、良いご子息を持たれましたね、東雲官房長官」





「……ええ、私には勿体ない」






久寿は近くにいる議員達にそう言われ、照れ臭そうだった。
照れ臭さもあったが、微かに目には涙が滲んでいるようにも見えた。
一颯はそれには気付いていない。
何故なら、耳元のインカムで汐里と瀬戸に茶化されていて、それの相手に忙しいからだ。





ふと、一颯はピリッと背筋を刺すような気配を感じる。
世に言う殺気と言うものだ。
殺気を感じた方を見れば、可我士が一颯と久寿の方を睨んでいた。
だが、一颯と目が合うと物腰和らげな笑みを浮かべる。





「……京さん、瀬戸」





『分かってる。このまま行けば、現行犯でいけるかもな」




汐里の中では放火の犯人は可我士で断定しているようだった。
一颯も彼女と同じ意見だが、一縷の望みをかけていた。
可我士ではない犯人が別にいる、という望みを。






刑事になって二年が経つが、一颯はまだ犯人を最後まで信じ続けている。
色島に関しては完全なクロであったため疑ったが、可我士はまだ未成年。
犯罪者にはしたくないし、犯罪を犯して欲しくなかった。
犯罪を犯す何かしらの理由があったとしても、犯してしまっては戻れないのだ。






『……早く止めてやらないとな』






汐里の言葉に、一颯はウェイター姿の彼女の方を見た。
一颯の思考を読んだかのような言葉。
汐里は一颯の視線に気付き、優しげに笑って小さく手を振る。
――ああ、敵わないな。
一颯はつい頬が緩むのを感じながら、その手を振り返した。





『あの、仕事中にイチャつかないでくれますか?』






すると、インカムで瀬戸の呆れた声がした。
本人たちからすれば、別にイチャついていたわけではない。
だが、他人から見たらイチャついているようにしか見えない。
本人達はお互いあくまでも《相棒》なのだ。







「『イチャついてない」』








――今はまだ。