『浅川、東雲官房長官と仲良さげにしろ』




「え、嫌です。何で26歳にもなる大の男が父親と仲良くしないと――」





『官房長官、お願いします』





一颯の拒否を無視して、汐里はインカムの無線を久寿が着けているインカムに切り替えていた。
おい!?俺の話は無視か!?
と突っ込みたいが、理不尽を人の形したような性格の汐里に言ったところで無駄である。
それは二年間相棒をしてきたことで培った経験から来るものだった。





「一颯君は今、何のお仕事を?お父様の跡はお継ぎにならないので?」





挨拶を交わした議員が一颯にそう声をかけてくる。
政治家の息子は政治家、それがまさに世の常であることを物語っているような言い草だった。
不快に感じつつも顔には出さず、一颯は愛想笑いを浮かべる。





「長年の夢であった警官になって、今は捜査一課の刑事をしているんですよ。我が息子ながら正義感に溢れているので、政治家よりも刑事の方が合っているようですね」





久寿は一颯の肩をポンと叩く。
父は跡を継いで欲しかったが、結果的には一颯が進む道は自分で決めたことを喜んでくれている。
そんな父に一颯自身、恐らく初めて口にするであろう言葉を口にした。






「父には感謝してます。自身の跡を継いでほしかったにも関わらず、私の夢を応援してくれている。最初は反対されましたが私が夢を叶え、刑事になれたのは父の言葉があってのことですから」





反対した父をギャフンと言わせるために維持になっていたこともある。
だが、捜査一課の刑事になるのは長年の夢だったことには変わりはない。
今なら言える気がした。
自身がずっと言えなかったことを。





「私は東雲という政治家の家に生まれながらも政治家の道を選ばなかった。ですが、私は私を応援してくれる政治家の東雲久寿を、父としての東雲久寿を誇りに思います。今更ですが、父の子として生まれて良かったです」





東雲の長男で生まれたことを悔やんだ時期もあった。
だが、今は殆どそう思うことはなくなった。
たまに先輩達にボンボンだのと茶化されるが、不快になることはない。
昔の媚を売るような友人とは言えない友人達の様子とは違っていたから。